きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

2017-01-01から1年間の記事一覧

届かぬ想い32

病室のドアが開く気配がして入り口に視線を向けた。 「気分はどうだい?痛みはある?」 ドクターウェアをさらっと着こなしたシャルルがこちらに向かって歩いてくる。 見慣れないその姿は何日もかけて研究してくれていたその時の姿を連想させるものだった。 …

届かぬ想い31

その日は案内された病室で過ごし、翌日の手術に備えて必要な検査をいくつか受けただけで終わった。 術前の夕食は消化の良いものしか出さないから期待はするなとシャルルに言われてたけど目の前に置かれたトレーを見てがっかりせずにはいられなかった。 隙間…

届かぬ想い30

それならとその日のうちにあたしはシャルルが所長を務める病理研究所に併設されている病院に入院することになった。 病院に向かう車の中でシャルルはあたしを連れてパリに戻った日から今日までどこで何をしていたのかを聞くことができた。 「前にも一度説明…

届かぬ想い29

どこかで聴いたことのあるような曲が耳へと流れ込んでくる。ヘッドホンをあてているおかげで目を瞑ってしまえばまるでコンサートホールにでもいるかのような感覚になる。 あと一曲、聴き終えたらたぶん検査は終わるはずだわ。 今、あたしが何をしているかっ…

届かぬ想い28

あっ……。 つい口が滑ってしまった。 シャルルは僅かに目を細めるとあたしの中の真実を見極めるかのようにその瞳を鋭く光らせた。 そしてあたしの肩を掴む手に力が入る。 「なぜすぐに言わなかった?!」 責めるかのようなシャルルの言い方にあたしは悔しくて…

届かぬ想い27

「マリナさん、どうかしましたか?!」 あたしは慌てて溢れそうな涙を袖で拭い、俯いたまま前髪を触るフリをして顔を隠した。 「大丈夫よ、何でもないの」 思ってたよりも自分の声が涙交じりで焦った。これじゃジルに泣いてるって思われてしまう。 前にもこ…

届かぬ想い26

抜け落ちていた記憶が次から次へとあたしの中へと流れ込んでくる。 ドアに引き込まれる感触、シャルルの香り、駆け下りてくる靴音、冷たく硬いタイル、そして迫り来る壁……いくつもの記憶の欠片がドッと押し寄せてきてあたしは一気に不安になった。 心に黒い…

届かぬ想い25

シャルルには大切な人がいる。そんなことは分かっている。あの日、彼女を気遣ってシャルルはあたしと同じ部屋で過ごすことを避けた。 手が届きそうなほど近くにいるのにシャルルをとても遠くに感じた瞬間だった。 あの時の寂しさはいま思い出しただけでも胸…

届かぬ想い24

閑静な高級住宅が立ち並ぶ一角にひときわ大きなお屋敷が見える。こうして改めて見るとシャルルって本当にすごいんだなと思った。 シャルルの言った通りあれから四十分ほどでお屋敷に着いた。 シャルルはしばらくのんびり過ごすようにあたしに言うとジルと共…

届かぬ想い23

どんよりとした雲を銀翼に纏わせながらプライベートジェットはまるでパリの街へと吸い込まれるかのように下降を始めた。 エッフェル塔や凱旋門といったパリを代表とする建物が遠くに見える。 この景色を目にするのは六年ぶりだった。懐かしさと共にシャルル…

届かぬ想い22

次の日、あたしは早くに目が覚めた。まだ東の空は白み始めたばかりだった。 昨日は結局、夕食も食べずにそのまま寝ちゃったもんだから要はお腹が空いて目が覚めたってわけ。 シャルルが他の部屋に行ったことはもちろんショックだったし、シャルルとの距離を…

届かぬ想い21

チャイムの音でシャルルの意識はあたしから離れ、来客者へと向けられた。 「ふぅ……」 あたしは思わず安堵の息をもらした。シャルルにあんな風に見つめらたら誰だってドキドキするわよ。 シャルルはあたしから離れると壁に掛けられたインターホンに手を伸ばし…

届かぬ想い20

最上階への直通エレベーターはガラス張りになっていて身がすくみそうなほど高く、東京の街がぐるりと見渡すことができた。 ふわっとした浮遊感をわずかに感じた直後にエレベーターの扉が開いた。 シャルルはさっと動くとあたしに先に降りるように促し、あた…

届かぬ想い19

シャルルは自信に満ちた笑顔を見せながらあたしの目の前まで来ると、確かめるようにあたしの顔を覗き込んだ。 「オレが誰だか知っているだろう?」 それはこれまであたしが何度となく聞かされてきた言葉だった。 「シャルル……」 シャルルはそっと手を伸ばし…

届かぬ想い18

「マリナをパリに連れていく」 マルセル犯人説では確かに腑に落ちない点がある。だがマルセルが無関係であるとも考えにくい。 マリナを狙ったものなのか、ただの事故なのか……。 どちらとも判断がつかない状態でマリナを残していくことはできない。 たとえ今…

届かぬ想い17

「マルセルの会議への参加は教授からの提案ですか?」 教授の目的は会議を成功させ、自らの名を上げることだ。オレが参加する事によって特殊細胞分野での新たな研究を発表することができた。 つまりオレが会議を欠席したものの、すでに教授の目的は達成され…

届かぬ想い16

二人の刑事はマルセルの両側に立つと有無を言わさぬといった様子でマルセルに同意を求めた。 「私が何か?」 マルセルは自分の身に何が起きているのか分からない様子だ。 「あなたを慶西総合病院で見かけたという情報が入りまして」 すかさず年配の刑事が含…

届かぬ想い15

「君が責任を感じる必要はない」 有川沙耶と別れ、オレはマリナを送らせるつもりで待たせたままにしていたハイヤーに乗り込んだ。 彼女がオレとマリナのことを看護師に尋ねていたのは何も知らなかったとは言え 自分が余計なことを言ったせいでマリナが動揺し…

届かぬ想い14

オレはタイルの床を蹴るように階段を駆け上がった。 病棟に続く廊下は見舞い客も多く、辺りを見渡したがそれらしき人物を見つけることはできなかった。人の流れに溶け込んだか。 「くそっ!」 オレをつけ狙っていたのか、パパラッチの類か、それとももっと別…

届かぬ想い13

まさか……。 いや、そうではない。 MRI画像に映し出された白くぼんやりとした影。脳細胞の一部が壊死しているのはこの目で何度も確認をした。 現実を直視しなければならない医師という立場でありながらこれまでの驚異的なマリナの生命力に何度も驚かされた過…

届かぬ想い12

後遺症がどのような形となって現れるかはマリナの意識が戻らないことには予測の域を超えられない。ただ視覚野に何らかの影響が出ることは明らかだ。 最悪の場合、マリナは光を失う。 現代医学では外傷性脳損傷によって壊死してしまった細胞は決して元に戻す…

届かぬ想い11

限定にはしていませんが今回マリナちゃんの状態が少しずつわかってきます。決して重い状態ではないものの軽くもないです。丈夫なマリナちゃんのイメージを壊したくないという方は飛ばしてお読み頂いた方がいいかもしれません。また症状、治療法に関してはあ…

届かぬ想い10

マリナにはオレの車でホテルへ行くように言い残し、病室をあとにした。 一階受付で施設を利用させたもらった礼を言い、治療費の清算を済ませた。 実際に治療にあたったのはオレだが施設を利用して行った行為は病院の利益として帰属する。 マリナはきっと勝手…

届かぬ想い9

「シャルル、お幸せにね」 オレは堪らずにマリナの左腕を掴んだ。 「マリナ……君は今、幸せか?」 オレの問いにマリナは黙り込み、俯いた。再度、同じ質問を繰り返すがマリナは答えようとせずオレの手を振り解こうとする。答えられないのは分かっていた。オレ…

届かぬ想い8

シンポジウムが開催されるのは午後からだ。オレは早めに会場入りをし、マリナが手伝いをしていると言う出版社主催のイベントフロアに向かった。 エレベーター付近で人集りが出来ているのを横目に通り過ぎようとした時、マリナの姿がちらりと見えた。群がる人…

届かぬ想い7

昨夜から降り続く雪はパリの街を白く染めていく。 あれから六年……またこの季節がやってきた。マリナと別れ、ルパートと共にパリへ帰国したあの日もこんな風にパリの街は白一色に染まっていた。 「今夜はノエルブランですね」 ふいに声を掛けられて自分がぼん…

届かぬ想い6

「それならなぜ泣く?」 その声はどこか切なげだった。 シャルルはきっとあたしを哀れんでいるんだ。どう見たってあたしが幸せそうに見えるわけがない。 だけどそんな事どうだっていいじゃない!それがひどく惨めだった。苛立ちは自然とあたしの涙を止めてく…

届かぬ想い5

シャルルの後ろ姿を見ていたら何だかあたしには神様が止めておきなさいって言っているように思えた。 フランスが誇る天才シャルルとフランスの女優さん。誰が見てもお似合いだわ。二人はすでに二人だけの道を歩き始めているっていうのに何をしようとしてたん…

届かぬ想い4

「シャルルっ?どこ?!」 あたしは自分の声で目が覚めた。 また、あの夢だ。 右手に違和感を感じて目をやると真っ白な包帯が厚く巻かれていた。 そうだ、シャルルと彼女の事に気を取られてぼんやりしていたら、うっかりエレベーターの扉に手を引き込まれち…

届かぬ想い3

「あ……」 沙耶さんは小さく声をあげてから慌てたように手で口を塞いだ。 これ、あたしもよくやるわ。 駅に着いてからお財布を忘れたことに気づくとか、せっかく買い物メモを書いたのにスーパーに着いてからメモを持ってきてないことに気づくとかね。 「忘れ…