きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い25

シャルルには大切な人がいる。そんなことは分かっている。あの日、彼女を気遣ってシャルルはあたしと同じ部屋で過ごすことを避けた。
手が届きそうなほど近くにいるのにシャルルをとても遠くに感じた瞬間だった。
あの時の寂しさはいま思い出しただけでも胸がぎゅっとなる。
でも、それならどうしてこの家では今だに全員が日本語を使っているの?
それもシャルルの心に刻まれた人の影響って。
もし、それらがあたしへとつながっているとしたら……。

部屋からは出ないように言われてる。だけど全く見えないわけじゃない。転んだりしなきゃ大丈夫。
辺りをキョロキョロしながら記憶を頼りにシャルルの執務室を探してお屋敷の中を歩いた。
シャルルに会いたい……。
遠く離れた日本にいた時は叶うはずもない願いを願うことすら諦めていた。時が経つにつれ、そんな事を考えることさえ心の奥底にしまい込んだまま、あたしは日々の生活に追われていた。
でも今は違う。シャルルはすぐ近くにいる。
シャルルに会って確かめたい。
ほんの片隅でもいい、シャルルの心の中にあたしはまだ存在しているのかを……。
中庭を横目にぐるりと歩いているとあたしは部屋から見えていた景色とこの庭の景色が違うことにふと気づいた。
あれ?
ロザリーさんが持ってきてくれた薄紫色をしたアイリスは一つもなくて、目の前に広がるのは自然石で描かれた緩やかなカーブがバラの小道へと誘い込むような空間だった。
シャルルの執務室ってたしか中庭に面していたと思ったけど、もしかしてこのお屋敷って中庭は一つじゃないってこと?!これじゃ遥か昔の曖昧なあたしの記憶を頼りにシャルルの執務室を見つけるのはとても難しい事のように思えた。
あの時はたしか、いくつかの棟を一つずつ探しながら偶然、シャルルの執務室を見つけたんだもの。
さて、どうしよう。
こりゃ誰かに聞いた方が早そうね。
誰かいないかしらと探して歩いててもすれ違うのは仕事関係の人たちばかり。そうしているうちにひょっこりと玄関ホールに続く廊下に出た。
何やら騒がしい。
見れば女の人が警備の人ともめているみたいだった。

「あなたでは話にならないわ。彼はどこにいるの?!」

あっ……!
あの人、あの時エレベーターにいた人だ。それにあの声。
騒ついていた辺りの音がしーんと静まりかえったかのようにあたしの頭の中にあの日の記憶が蘇ってきた。
そうだ、あの人だ。



つづく