きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い5

シャルルの後ろ姿を見ていたら何だかあたしには神様が止めておきなさいって言っているように思えた。
フランスが誇る天才シャルルとフランスの女優さん。誰が見てもお似合いだわ。二人はすでに二人だけの道を歩き始めているっていうのに何をしようとしてたんだろう。
ふつふつと笑いが込み上げてくる。

「もう帰ろう……」

あたしは誰ともなしに呟きながらベットから降りた。
そこにちょうどシャルルが戻ってきた。

「マリナ?」

シャルルは少し驚いた顔をしていた。
あたしは目一杯の笑顔を作ってシャルルの前に立った。

「シャルル、今日は本当にありがとう。忙しいのに面倒かけちゃってごめんね。あたし、もう平気だから帰るね」

「そうか」

「うん」

あたしは今にも口から出てしまいそうな言葉をぐっと飲み込んでコクンとうなずいた。一刻も早くこの場から離れたい。
会わなければよかったとは思いたくない。でも目の前のシャルルの香りがあたしを急き立てる。ベット脇の荷物カゴの中からコートとバックを掴みとった。
シャルルは何も言わずにあたしの様子をじっと見ている。これで最後。
あたしはシャルルのその麗しい姿を目に焼き付けるように見上げた。

「シャルル、お幸せにね」

これがあたしにできる精一杯のお別れの言葉だった。
瞬間、シャルルの手がすっと伸びてきてあたしの左腕を掴んだ。

「マリナ……君は今、幸せか?」

絞り出すようにシャルルはあたしに問いかけた。

「え?」

どうしてそんなことを聞くの?
あたしはすぐに答えることができずに俯いていると

「マリナ……幸せか?」

そう言ってあたしを掴む手にぐっと力を入れた。そんなこと聞かれたってなんて答えればいいのよ。あたしはシャルルに掴まれている手を振りほどこうとするけどシャルルはびくともしない。

「痛い、離して」

「答えろ」

青灰色の瞳があたしをまっすぐに見つめている。それはまるで心の中を見透かされてるようであたしはそれを見せまいと自分の心に嘘をついた。

「もちろん、幸せよ」

その嘘の言葉はひどくあたしの心を傷つけた。幸せなんてもう何年も感じたことがない。ずっと後悔を抱えたままあたしは前に進むことができずにいた。
なぜあの時、シャルルの手を離してしまったんだろうって何度も何度も自分を責めた。シャルルはあんなにもあたしを愛してくれたのに。でも今、シャルルが愛しているのは彼女なのよ。もうあたしじゃない!
わかりきっていた答えにたどり着いたとたんにずっと必死に抑えていた感情が溢れ出して涙がこぼれ落ちた。
シャルルが誰を好きになってもあたしには何も言えない。
あたしの涙を見てシャルルは掴んでいた手をふっと緩めた。

「それならなぜ泣く?」


つづく