きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い13

まさか……。
いや、そうではない。
MRI画像に映し出された白くぼんやりとした影。脳細胞の一部が壊死しているのはこの目で何度も確認をした。
現実を直視しなければならない医師という立場でありながらこれまでの驚異的なマリナの生命力に何度も驚かされた過去の経験がオレの判断を鈍らせたのだ。

手にしていたメガネを少しずつマリナに近づけた。思った通りマリナがそれに気づいたのはほぼ真正面だった。
間違いない。
マリナは右脳損傷による左側同名半盲だ。これは視野の一部分が欠損してしまう障害だ。それで無意識に何度も目をこすっていたのだ。
もともとマリナはひどい近視だ。そのため裸眼の状態では見えていないという認識があまりなかったのだ。
マリナが発していたいくつかのシグナルをオレは見落としていた。
メガネを掛けたマリナは辺りを見渡し、不安げな顔をしてオレを見た。

「シャルル……あたし、半分しか見えてないっっ!」

同名半盲は両目とも片側の視野が欠損する。つまりマリナは両目とも左側の視野が失われている。残されているのは右側の視野のみだ。

「大丈夫だ。少し時間はかかるが必ず良くなる。だから心配いらない」

オレはマリナを不安にさせないためにそうは言った。だが現代医学では視野欠損の治療法はまだない。

「よかった……!
ずっとこのままってわけじゃないのね。で、どれぐらいで治るの?」

早い段階でリハビリを開始し、継続することが大切だとマリナに伝えた。
うまく眼を動かし見える側の視野の中に見たい物をもってくる練習をするのが一般的なものだろう。問題は根本解決にはならないという事だ。
失ったものは取り戻せない。
全てが元通りになるわけではない。だが今の段階でそれをマリナに伝えるのは避けたかった。詳しいことについては折をみて話すことにした。

病室をあとにしたオレはマリナが転落した現場に足を運んだ。事故直後すぐに警察が入り現場検証が行われたそうだがやはり目撃者もなく、争った形跡もない事から単なる転落事故ということで処理されたそうだ。
すぐ近くにはエレベーターがある。やはり現場となった階段を利用する人はほとんどいない。階を行き来する看護師が利用する程度のようだ。
マリナを発見したのもやはり病棟の看護師だったという。
オパールグリーンのタイルがひんやりとした空気を漂わせている。
マリナはこんな場所で倒れていたのかと思うと胸が痛んだ。
辺りを見渡してもやはり防犯カメラは設置されていない。目撃者がいなかったとなれば何が起きたのかはマリナに聞くしかないが何せマリナは事故前の記憶がずいぶんと抜け落ちている。真実が明らかになるのは難しいだろう。
オレは踊り場まで下りてみた。高さは二メートルほどか。一番上からここまで落ちたとして、あれほどの怪我をするだろうか。ふと階段を見上げた時、さっと動く人影が見えた。

「誰だっ?!」




つづく