きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い32

病室のドアが開く気配がして入り口に視線を向けた。

「気分はどうだい?痛みはある?」

ドクターウェアをさらっと着こなしたシャルルがこちらに向かって歩いてくる。
見慣れないその姿は何日もかけて研究してくれていたその時の姿を連想させるものだった。
目が見えてないって分かったらシャルルはなんて思うだろう。

「マリナ?」

シャルルは焦れたようにあたしの名を呼ぶ。

「あ、ごめん。大丈夫、どこも痛くないわ」

シャルルは手にしていたカルテにサラサラと何かを書き込みながら言葉を続けた。

「麻酔が完全に切れたら手術した箇所が痛むかもしれない。その時は鎮痛剤を投与するからすぐに言うんだよ」

やっぱりシャルルは成功したって思ってる。そりゃ、まさか自分が執刀した手術が上手くいかなかったなんて思いもしないわよね。
どうしよう……。
他の何を犠牲にしてでも成功させるつもりでいたと話してくれたシャルルの事を思うと余計に言いづらい。
いっそのこと見えるって言ってしまおうか。でもすぐに分かってしまうものかな。
そんな事を考えながらペンを走らせているシャルルの横顔を見ていたら不意にシャルルがあたしに視線を向けた。
焦ったあたしが思わず目を逸らすとシャルルはベット横に置かれているチェストの上にカルテを置いてあたしに向き直った。

「どうかしたか?何か心配?」

あんたの事が心配とも言えず、かと言ってシャルルを相手にこの先もずっと見えてるフリなんてできるはずもない。
あたしは迷いながら正直に話すことにした。

「あのねシャルル、せっかく手術してくれたのに前とあまり変わってないみたいなのよね」

あたしがそう言うとシャルルは僅かに眉をピクリとさせた。やっぱりショックだよね。間違ったことがないのに間違ってしまったんだもん。

「そうだろうな」

え?
あたしが驚いているとシャルルは深いため息をついた。

「マリナ、オレの話を聞いてなかったのか?」

「ちゃんと聞いていたわよ。手術は成功したって。でも……」

シャルルの青灰色の瞳が鋭く光る。

「でも、何も変わってないわよ……か。
それでどこか様子がおかしかったのか。
分かるように説明したつもりだったが君の知能レベルを加味して説明しなかったオレが悪かったよ」

シャルルはあきれた様子でベット横に置いてあった椅子を引き寄せるとそこに腰かけた。

「いいかい?手術は無事成功したんだ。何も心配はない。
君の死んでしまった細胞に今回オレが開発した特殊細胞を植え付けた。この特殊細胞が君の細胞の代わりに再生を繰り返し、すべて元通りにしてくれるんだ。いくつかの動物で実験したがおよそ一週間で定着し再生が進んでいる。だからマリナ、君の目も一週間もすれば元のように見えるようになるよ。
ジルの報告によれば一週間前後で成果が出ているってここへ向かう車の中で話しただろう?」

そういえば実験がどうとか言ってたような……。
あたしが苦笑いしてごまかそうとしたらシャルルはカルテに手を伸ばした。

「予定では明日にでも退院して屋敷でゆっくりと経過観察するつもりだったが、オレを信じなかった罰として退院は延期、食事は術前と同じものをと書いておくよ」

カルテに書き込むフリをしてニヤッと笑ったシャルルは懐かしいあの頃の表情をしていた。

「えーっ!?」

あの隙間だらけのトレーを思い出したあたしはベットから起き上がろうとして慌てたシャルルに止められた。

「おいマリナ、せめて今日一日は安静にしててくれよ。本当に退院できなくなるぞ」

げっ!
このシャルルの一言であたしは大人しくすることを約束し、翌日にはお屋敷に戻ることができた。


つづく