きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い12

後遺症がどのような形となって現れるかはマリナの意識が戻らないことには予測の域を超えられない。ただ視覚野に何らかの影響が出ることは明らかだ。
最悪の場合、マリナは光を失う。
現代医学では外傷性脳損傷によって壊死してしまった細胞は決して元に戻すことはできない。

オレはその足でマリナの病室へ向かった。ベットに横たわり静かに眠る姿は数時間前にオレが運び込んだ時と何一つ変わらないはずなのにどこか儚く見えた。
程度にもよるが骨折や擦過傷は時が経てば自然と治る。
だが今のマリナはおそらく何かを抱えて目覚める。その時マリナは現実を受け止められるのか。
そっと近づき眠るマリナの頬に触れた。
するとマリナは僅かに瞼を震わせながらゆっくりと目を開いた。
意識が戻ったかっ!
息をつく間もなくマリナが直面している障害を見極める必要がある。
その瞳には何かが見えているのか、それとも……。
視線はゆらゆらと天井に向けられ彷徨っているようにも見える。やはりダメなのか?!
オレは自分の右手人差し指を立てるとマリナの目の前でゆっくりと左右に動かしてみた。するとマリナがわずかにオレの方に顔を向けてふっと笑みを浮かべた。

「どうしたのよ、シャルル?」

その視線は迷うことなくオレの瞳に合わせられ、一ミリの狂いもなくオレの姿を捉えていた。胸の奥から何かがぐっと込み上げてくる。オレは無意識のうちに詰めていた息を深く吐きだした。
マリナは見えている!
そう確信し、オレは歓喜に震えた。細かい検査についてはまだ覚醒したばかりだ、明日以降にするとして今は簡単に現状を把握しておきたい。
しかし視覚野細胞の一部が壊死していたにも関わらず何の影響も出てなかったとはさすがはマリナだ。あのニトロまで飲み干した程だったことを思い出し、可笑しくなった。

「早く元気になるおまじないだ」

まだ眠気が残っているのか目をこすり、クスッと笑って答えた。

「シャルルでもおまじないなんて信じるのね」

今ならまじないだろうが奇跡だろうが信じられそうだ。

「マリナ、痛むところはないかい?」

「うん、ないけど。あたし一体どうしちゃったの?」

事故当時の記憶が欠乏するのはよくあることだ。特にマリナは脳に損傷を受けているんだ。この先も思い出す事はおそらくないだろう。
オレはマリナが動揺しないように階段から足を滑らせ頭部を数針縫ったとだけ話した。オレが話終えるとマリナは自分の右手をあげてじっと見つめた。

「これじゃマンガもしばらく描けないわね」

そう言いながらマリナはまた目をこすった。エレベーターでの事故も記憶にないようだ。いつからいつまでの記憶が飛んでしまったのかを確かめるのはとても困難だ。一部分が抜け落ちているだけで特に問題がなければ曖昧なままでも構わないだろう。

「少しの間だけだ」

「ねぇ起き上がってもいい?」

今の自分の状況を確認したいのだろう。意識もはっきりとしているし、鍵穴開頭法による手術は傷口も小さく患者の負担は通常の開頭法に比べるとかなり軽い。

「少しだけならね」

体をゆっくりと起こしてやりベットボードと背中の間に枕を入れてやるとマリナはメガネを探すような素振りをみせた。
辺りを見渡すとサイドボードの上に置かれていた。それを手に取りマリナの前に差し出した。ところがマリナはそれには何も反応を示さなかった。
まさか……。



つづく