きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い4

「シャルルっ?どこ?!」

あたしは自分の声で目が覚めた。
また、あの夢だ。
右手に違和感を感じて目をやると真っ白な包帯が厚く巻かれていた。
そうだ、シャルルと彼女の事に気を取られてぼんやりしていたら、うっかりエレベーターの扉に手を引き込まれちゃったんだ。
体を起こして辺りを見渡してみるとどうやらここは病院のようだった。

「目が覚めたか?」

言いながらパーテーションの向こうからシャルルが姿を見せた。
意識を失う直前、あたしを呼ぶシャルルの声が聞こえたような気がしたけどやっぱりあれは夢じゃなかったんだ。
だけど夢の中のシャルルと現実のシャルルの声は何一つ変わらないのにその口調は驚くほど冷たく感じた。
今さら優しくしてほしいなんて言える立場じゃないけどあたしに向けられる眼差しまでもがあの頃とは違っていた。これが本来のシャルルなのかもしれない。
胸がぎゅっと締め付けられたように苦しくなった。

「あ、うん……」

あたしから出たのはこんなよそよそしい言葉だけだった。
六年という時の流れがあたし達の関係をすっかり変えてしまったんだ。シャルルに愛されていた頃の記憶が今のあたしを苦しめる。
気がつくのが遅かったなんて今さら言ったところで惨めなだけだけど、シャルルとこんな最後でいいの?
もう二度と会えないのは確かだった。
あたしは自分の心に問いかけていた。
このままシャルルと二度と会えなくなってもあたしは後悔しない?
せめてずっと好きだった事だけでも伝えたい。シャルルと過ごした日々はあたしにとって忘れられないものだったと。
たとえその想いが届かなくても……。
ううん、きっと届きはしない。
だってあたしは他の誰かを愛するシャルルをもう知ってしまっているんだもの。
今もこの部屋に広がる香りは彼女と同じものだ。その現実に涙が出そうになる。
でもこのままだときっとあたしは後悔する。二人の間に長い沈黙が流れる。
あたしは大きく息を吸い込んだ。

「あのね、シャルル、あたし……」

その時あたしの言葉を遮るようにシャルルの携帯が鳴り響いた。
あたしはすぐに言葉を引っ込めた。シャルルは携帯の画面を確認するとあたしをチラッと見て「失礼」と言って背を向けてその電話に出た。

「オレだ。こちらの用事が済んだらオレもすぐに戻る。あぁ、心配はいらない。テェックインは……」

シャルルは話をしながら静かに部屋を出て行った。電話の相手が彼女だってすぐに分かった。
本当に終わってしまったんだ。
あたしはシャルルの出て行った扉をただ見つめるばかりだった。





つづく