きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い23

どんよりとした雲を銀翼に纏わせながらプライベートジェットはまるでパリの街へと吸い込まれるかのように下降を始めた。
エッフェル塔凱旋門といったパリを代表とする建物が遠くに見える。
この景色を目にするのは六年ぶりだった。懐かしさと共にシャルルと過ごした日々を思い出し、ちょっと胸が苦しくなった。
大切なものに気づかず、無神経に過ごしていたあの頃のあたし。
シャルルと出会い、共に過ごしたこの街に再びあたしは足を踏み入れた。

空港にはすでにアルディ家の車があたし達の到着を待っていた。
シャルルとあたし、ジルとダニエルで二台に分かれて車に乗り込んだ。
後部座席にあたしはシャルルと並んで座った。でも二人の間にはもう一人座るだけのスペースが十分にあった。それが今のあたし達の距離なんだと思うと胸がギュッとした。

車は順調に走り続ける中、あたし達の間に会話はなかった。
あたしはちらっとシャルルの様子を横目でみた。
シャルルはじっと黙ったまま両腕を組んで前を見据えていた。こんなに近くにいるのになんて遠くに感じるんだろう。

「はぁ……」

あたしは自分のため息の大きさに驚く。
シャルルがチラッとあたしの方を向いた。

「どうした、マリナ?」

「あ、えーと、お屋敷まであとどれくらいかかるのかなって思って」

思いつきで適当に言ったものの、我ながら上手く自分の心の的を射ているなと思った。正直あのまま無言でいるのも辛かったし。

「渋滞もなさそうだし、あと40分ほどかな。オートルートデュノールからバルドアーズを経由して3号線に入ればすぐにパリ市内だ。あとは環状道路を……」

だけどすぐにあたしはそれを後悔した。
うぅ……全くわからないわ。
そもそもその場所がどこなのかもわからないんだもん、話に乗れるはずがない。
これじゃ会話の続きどころか反応さえできないじゃない!
ひと通りシャルルの説明が終わり、あたしは「そうなのね」としか言えなかった。
しょうがなかったのよ、気の利いた言葉の一つも思いつかなかったんだもの。
というわけでこれ以降、シャルルとはお屋敷に着くまで何も話せないまま、あたしはますます二人の距離を遠くしてしまったのだった。
こんなにもシャルルを意識している自分に改めて気づかされ、行き場のない想いを持て余したまま、あたしはどこに行こうとしているんだろうか。
もし、シャルルに恋人がいなければ……きっとこの距離を埋めることもできたのかもしれない。




つづく