きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い15

「君が責任を感じる必要はない」

有川沙耶と別れ、オレはマリナを送らせるつもりで待たせたままにしていたハイヤーに乗り込んだ。
彼女がオレとマリナのことを看護師に尋ねていたのは何も知らなかったとは言え
自分が余計なことを言ったせいでマリナが動揺し、事故に遭ったのではないかと責任を感じていたからだった。
結果的にオレはマリナが失くした記憶の欠片を彼女から聞くことができた。そしてマリナのあのよそよそしい態度も納得できた。

「ジル、調べてもらいたいことがある」

ホテルでマリナを待つよう言っておいたジルに連絡をとりシンポジウム会場で落ち合うことにした。
会場に着いたオレはシンポジウムを傍聴し終えたダニエルと合流した。
ダニエルの話によればオレが抜けた穴は
マルセルという男が代わりに参加したそうだ。彼は教授の研究チームの一員で元々は参加メンバーに名を連ねていた。今回も教授に同行し日本に来ていてオレが不参加になったことで急遽参加が決まったらしい。
今回の他生物による特殊細胞再生に関する研究をオレと教授の共同発表としていたため、教授と行動を共にしていた彼もまた当初からこの研究に携わっていたからだろう。

「アルディ博士と教授の共同研究として発表した今回の特殊細胞はこれまでにない画期的な物で今後の医学会で大きな役割を果たす事になると注目を集めていました」

ダニエルは興奮気味にそう話すと他の研究者の資料をオレに差し出した。オレはそれを受け取り、他の参加者の研究内容にさっと目を通した。そのどれもがまだ研究過程にあり実現するにはまだまだ時間がかかるものばかりだった。だがオレの見つけた特殊細胞は決して未来の物ではない。実用化まではあと少しだ。

参加者の多くはこの後行われる親睦会に参加するために会場に残っていた。教授も同じく残っていると聞き、オレはダニエルに待つように言うと一人、教授の控え室を訪ねた。

「教授、私用で欠席してしまい申し訳ありません」

応接室さながらの控え室には教授とマルセルがいた。このマルセルという男とも研究の段階から何度か顔を合わせているがどうも気の弱そうな男だ。
オレが今回の件の謝罪を述べると教授はソファに腰掛け、オレにも座るように促した。同席することに気が引けるのかマルセルは傍で立ったまま控えている。

「それでお知り合いの方の容体はいかがでしたか?」

「ご心配をおかけしましたが何とかと言ったところです」

マリナの詳しい状態についての説明は避けた。今はまだ話す段階ではない。

「それは何よりです。いやいや、会議の方はマルセルがアルディ博士の代わりと言ってはあれですが何とか無事に終えることができました。
それにしてもアルディ博士と私の共同研究が大変な話題を集めましたよ。万能細胞を超えるとも言える特殊細胞の存在を今回の会議で発表できたことで新たな再生医療が実現可能なものとして期待も高まったはずです」

よほどの手応えを感じたのか教授は共同研究と言う言葉を特に強調した。研究自体はオレが進め、教授はただそれに乗っただけだがこの世界ではよくあることだ。そのこと自体は承知の上で受けたことだ。そもそもオレの目的は会議で名を上げることではない。
ただ問題は共同研究にしたことで教授の了承も得なくてはならなくなってしまったことと当初とはこちらの状況が変わったということだ。人々の関心を集めたとなればなおさら教授は手を引かないだろう。
その時、控え室のドアをノックしてスーツ姿の男が二人現れた。

「何だ君たちは?!」

教授は訝しげな表情を浮かべ彼らを見据えた。

「警察です。マルセル・ベルランさん、少しお話を聞かせてもらえますか?」



つづく