きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い11

限定にはしていませんが今回マリナちゃんの状態が少しずつわかってきます。決して重い状態ではないものの軽くもないです。丈夫なマリナちゃんのイメージを壊したくないという方は飛ばしてお読み頂いた方がいいかもしれません。また症状、治療法に関してはあくまでも想像のものです。

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ダニエルを残してオレは会場を出た。今回の会議の参加者はオレを含めて八名。
まず未来細胞とも言えるこの特殊細胞再生分野の見解と研究について順に意見を述べていく。その後討論へと移っていき最後に質疑応答で終了となる。
オレだけの講義ならともかく今回はオレが抜けたとしてもさほど大きな問題はないだろう。
ただヴィオレーヌ教授のことだ。また何か言ってくるのは確かだ。それでもマリナを放ってはおけない。
大通りまで出てタクシーを拾った。

「慶西総合病院まで頼む」

静かに走り出したタクシーは環状線に入ってからももどかしい程に黄色信号で律儀に止まる。安全運転も度を越している。

「頼む、急いでくれ」

ここはいわゆる標識のない一般道。その速度制限は60キロだ。秒速に直せばおよそ1秒間に16.6メートル進む計算だ。数メート手前で信号が黄色に変わったところで問題なく通過できるのだがこの男は毎回車を停車させるのだ。
だが今はそんな事を考えている場合ではない。足を組み直し、運転手の存在を忘れることにした。
落ち着け、落ち着くんだと自分に言い聞かせた。マリナは緊急オペを受けたとはいえ、どんな状態かこの目で見るまでは分からない。どんな状態でもオレが必ず治してみせる。そうでなければオレが医者でいる意味がない。
病院の建物が見えてきた。急げと言ってからも運転手の様子はほとんど変わりはなかった。全く使えない男だ。アルディの者であればこの場で解雇してやるところだ。
ほどなくしてタクシーは静かに正面口へと滑り込みオレは駆け出した。
入口の自動ドアももどかしくわずかな隙間に体を滑り込ませるように駆け込む。そのまま受付に向かい、西谷田を呼び出した。
気持ちばかりが焦り、待たされている時間がとても長く感じる。
先ほどの運転手とは違い、西谷田は迅速な対応でオレはすぐにマリナのオペを担当した医師と共にMRI画像室へ向かうことができた。
担当医師の話によれば落ちた時に後頭部を強打したらしく、外傷性脳梗塞を起こし後頭葉の一部が壊死してしまっていたとのことだった。幸い梗塞を起こしたのが表面部分だったためオペは鍵穴開頭法で行なわれた。そのため短時間で終えることができたそうだ。
だが階段から落ちただけでそんな事があるか!?打ち所が悪かったとでも言うのか!?
何かの間違いだ。
はやる気持ちを抑えて映し出されたMRI画像を確かめた。

「この画像は池田麻里奈の物で間違いないのですか?!」

画像を目にした瞬間、オレは息を飲んだ。後頭葉のほんの一部だがぼんやりと白くなっていた。

「ええ、間違いありません」

画面を食い入るように見つめる。だがどの画像を見ても何度見直しても変わりはしなかった。
かなりの段数を落ちたのか……。

「くそっ!」

オレは拳をデスクに叩きつけた。
脳深部に異常は見られないことから命に別状はないにしても後遺症が出るのは明らかだ。

「マリナ……」

なぜ、こんなことに。
西谷田の話によるとマリナは病室からほど近いエレベーターは使わずにどうやら階段を利用したとのことだった。非常階段とも言えるその場所を利用する者は少ない。そのため発見が遅れたそうだ。
それを聞いた瞬間マリナがエレベーターに乗るのを躊躇い、階段を使ったんだと思った。あの時、病室で別れずに車まで付いて行くべきだったとオレは後悔した。



つづく

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みなさん、こんにちは!
次話ですが少しお時間をいただきます。