きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い20

最上階への直通エレベーターはガラス張りになっていて身がすくみそうなほど高く、東京の街がぐるりと見渡すことができた。
ふわっとした浮遊感をわずかに感じた直後にエレベーターの扉が開いた。 シャルルはさっと動くとあたしに先に降りるように促し、あたしの背にそっと手を添えた。その瞬間ふんわりとシャルルの香水があたしの鼻を掠め、なぜか頭の中に女の人の後ろ姿が映像のように浮かんできた。

「マリナ、どうした?」

あたしが立ち止まっているとシャルルが心配そうにあたしを覗き込んだ。

「ううん、何でもない」

何だったんだろう、今の……。
首を傾げつつもあたしはシャルルに促されてエレベーターを降りた。
すると目の前にはホテルの中とは思えないような重厚で堅牢なロートアイアン調のドアがあたし達の到着を待っていたかのようにそびえ立っていた。
驚いているあたしの隣でシャルルがドアの横の液晶画面にカードをかざすと、ピピッという電子音と共にそのドアはゆっくりと開き始めた。
自動ドアなのっ?!
そして驚くあたしの目の前には見たこともないような優美な世界が広がるばかりだった。
一歩足を踏み入れたそこは大きなソファセットやダイニングテーブルがゆったりと置かれ、洗練された調度品や絵画はラグジュアリーな空間を見事に作り上げていた。
スウィートってこんなに凄いの?!
その全てが驚くほど豪華だった。奥の方にはさらに扉が見える。

「すごーいっ!何、この部屋!向こうの奥には何があるの?!」

あたしは子供のように浮かれて駆け出そうとした瞬間に絨毯に足を取られて躓きそうになった。

「うわっ」

あっと思った瞬間、シャルルがあたしの腕を掴んで引き寄せてくれたおかげであたしは転ばずに済んだ。
あーびっくりした!

「大丈夫か?」

「うん。あり……」

そう言って振り返ると切なげにあたしを見つめるシャルルの青灰色の瞳が目の前にあってあたしは思わず言葉を飲み込んだ。いつだったかこんな目をしたシャルルを見たことがある。
それがどこでだったのかは思い出せない。だけどそれはシャルルがまだあたしを好きでいてくれた頃の話だわ。
それなのにどうして今、シャルルがそんな目をするの?
もしかして今でもあたしのことを……?
ううん、そんなはずないわ。
だってシャルルには恋人がいるって沙耶さんが言ってて、あれ、沙耶さんといつその話をしたんだっけ?
そうだ、あたしはイベント会場で沙耶さんと一緒にいて……、胸の奥がざわざわと騒ぎ始め、目の前でチカチカとその時の映像を見ているような感覚になった。と次の瞬間、頭にズキンと電流みたいな痛みが走り、あたしは小さく声をあげてた。頭を押さえた。

「うっ……」

「マリナ、どうしたっ?!
頭が痛むのか?」

あたしが小さく頷きながら頭を押さえているとシャルルはさっとあたしを抱え上げて、そばにあったソファに寝かせてくれた。
それからあたしの手首に指をあてると腕時計に視線を向けた。

「少し早いな……。脳血流の変化によるものか」

シャルルは小さく呟くとバックから注射器とアンプルを取り出し、さっとあたしの腕を消毒綿で擦った。

「少し痛むぞ」

あたしの腕を固定するシャルルの手に力が入った瞬間、微かにチクリと痛みが走る。

「これですぐに痛みは引くはずだ。夕食まではまだ時間があるからそれまで奥で少し眠るといい」

シャルルは手早く片付けを済ませるとあたしを抱き上げて奥の部屋へと歩き出した。

「待ってシャルル、もう自分で歩けるから下ろして」

シャルルの言った通り痛みはすぐに治った。

「薬剤を打ったばかりだから歩き回るのはあまり良くない」

その一言であたしは黙って運んでもらうことにした。部屋の一番奥にあるドアをシャルルが開けるとそこは寝室で、大きな天蓋つきのベットが目に飛び込んできた。
うぅ……まさか、今夜はシャルルと一つのベット?確かに十分すぎる広さだけど、でもねぇ。
ベットを軋ませながらシャルルはあたしを下ろすと切なげにじっと見つめた。
そんな風に見つめらてあたしは内心ドキドキした。
何年ぶりかに見るシャルルはすっかり大人の男の人になっていてとても魅力的だった。そしてそんなシャルルと今は二人きり。
もしあの頃に戻れるなら……そう思った時、遠くから来客を知らせるチャイムが聞こえた。




つづく