きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い29

どこかで聴いたことのあるような曲が耳へと流れ込んでくる。ヘッドホンをあてているおかげで目を瞑ってしまえばまるでコンサートホールにでもいるかのような感覚になる。
あと一曲、聴き終えたらたぶん検査は終わるはずだわ。
今、あたしが何をしているかって、それは脳に異常がないかを調べるMRI検査を受けているところなの。
MRIっていうのは大きなドーナツ状の機械で磁場を利用して体や頭の中を画像化する装置なんだって。で、あたしはそのドーナツ状の筒の中に横たわって撮影されているんだけど、この機械から発せられる音はかなり大きくて工事現場やジェット機の離陸する時の騒音並み。
またこれらは継続的に音がするわけでもなくて突然音が止んだかと思えば急に音がしたりと断続的に繰り返される。
それに検査中は体をベルトで固定されるから身動きがとれない。だから恐怖心を抱いたり、ストレスになる場合があるんだって。だから耳栓で防音をしたり、ヘッドホンをさせて負担を軽くさせることが多いみたい。
時間は約三十分ほどで二、三曲聴いているうちに終わるはずだとシャルルは言ってた。
それでも途中でどうにも辛くなったら押すようにと渡された緊急ボタンはしっかりと右手に握り締めている。
だけど想像していたのとは違って何も感じなかった。磁場がどうとか言われたから多少は熱いとかチクリとかするかと思っていたけど本当にただ横になっているだけだった。
似たようなものでCT検査っていうのがあるみたいだけど、それは時間が五分程度と割と早く終わってストレスが少ない分、微量だけど放射線を使用する。だからシャルルは緊迫した状況ではない今、絶対に使いたくないってことであたしは今、MRIを受けながら曲を聴いているわけ。
シャルルに聞きたいことはいっぱいあった。だけどとにかく検査が先で話はその後だって言われてあたしは諦めてシャルルの言う通りにした。
玄関ホール脇で座り込むあたしを見た時、転落した時の影響が出たのか、フラッシュバックを起こしているのか判断がつかずにとにかくあたしを検査室に運んだらしい。
そして検査の結果、脳に異常はなし。
フラッシュバックはその時の痛覚や感情、恐怖心などが突然蘇ってあたかも体験しているような感覚になることもあるからそれで一時的に脱力、いわゆる腰が抜けた状態になったんだろうってことだった。

「過剰な恐怖や動揺など、一定の許容量を超えた情動興奮が自律神経へ働き、脱力を招いたと考えるのが普通だろうな。もう歩けそうか?」

あたしは体を起こしベットに座ると足をブラブラと動かしてみる。

「うん、もう平気」

その時、プルップルッと携帯が鳴り響いた。シャルルは携帯を取り出し、耳にあてる。

「オレだ。そうか、よし、一週間でそこまで行けたか」

電話が終わるとシャルルはあたしに向き直った。

「君に確認しておきたい事がある。犯人がミレーユと分かった今、彼女を告訴することはできる。だが彼女がすんなりと罪を認めるとは限らない。
それに犯行からだいぶ時間も経っている。最悪の場合、犯罪として立証することはできないかもしれない。
それでも日本に行き、手続きをするとなれば君の治療に取り掛かるまでしばらく時間を置かなければならない。
ただ、今の君の状態から言えばあまり時間を置きたくないのも正直なところだ。治療は片手間にできるものじゃないからね。それなら告訴はせず、彼女にペナルティーを与えるっていうのはどうだい?」

あたしが戸惑っていると

「オレに任せてくれないか?」

シャルルは不敵な笑みを浮かべた。
きっとシャルルの言った通りにしていたら間違いはない、あたしはそう思ってこくんと頷いた。

「分かった、あんたに任せるわ」


つづく