店長に話をしてからの平日は、3時にもなると元々の客数が少ないせいもあって、さっと帰れるようになった。
ただ、週末はそうもいかない。
あたしの帰る21時は、汚れた食器は山のようにあるし、新規のお客さんのオーダーは途切れることなく来るし、明日の準備もしなきゃと、皆が殺気立ちながら追われるように仕事をしている。
そんな中、帰ると口に出すのはなかなか勇気がいる。
「すいません、時間なので上がります」
10分を過ぎた辺りで意を決して声をかけた。すると学生の一人が料理を作りながらこっちをチラッと見ると隣で働いてる学生に言った。
「あんなに洗い物を残して帰るとか、マジ自由だな」
「居たってあんま変わらないからいいじゃん」
あたしに聞こえるようにわざと言ってるのは明らかだった。
「つうか、池田さん。せめて洗い終わった皿ぐらい元に戻してってくれませんかー?」
「あと、ゴミもよろしくです。俺達そんな事までやってる暇ないんで」
二人はそういうとお喋りしながら再び料理を作り始めた。
年はあたしと同じぐらいだけど、高校一年の頃からやってるらしく、だいぶ先輩な上に仕事が早い。
嫌味を言われても何も言い返せない。
言われた事を済ませて、更衣室で着替えているとホールの女の子が声をかけてきた。
「池田さん、中にいますか?」
「はい。何ですか?」
着替えを終えて更衣室から出てみると、女の子が受話器をあたしに差し出した。
「家の方からお電話です。保留にしてあります」
「あ、ありがとう」
まんが家になると言って家を出た手前、実家にはバイトをしていることは話していない。
だからここにかけてくるのは和矢しかいないんだけど、何かあったのかしら。
受話器を受け取り、通話ボタンを押した。
「もしもし?どうかしたの?」
「いや、何ってわけじゃないんだけど。お前、時間になっても帰りづらいんじゃないかと思ってかけてみたんだ」
「あ、うん大丈夫。もう着替えて帰るとこよ」
「そっか。じゃ気をつけてな」
「う、うん」
電話を切り、子機をフロアに戻しがてらあたしが帰ろうとしたら店長に声をかけられた。
「家から電話だって?」
何て言えばいいんだろうかとあたしは頭を抱えた。
家が火事になったとか、家族が倒れたとか、誰が聞いてもそれは大変だって思う話ならバイト先に電話が来てもおかしくないんだろうけど。
「えっと……」
彼が時間に上がれるか心配してかけてきただけとは言いづらい。
「夜だから気をつけて帰って来いと……」
すると店長は表情を固くした。
「すいません」
気まずい空気にあたしはとりあえず謝った。
フロアではまだ忙しく皆が働いている中、あたしは挨拶をしてお店を出た。
つづく