きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

愛は記憶の中へ 33

「来い」 先に立ってミシェルが部屋の中へ入って行く。あたしも続いて部屋に入った。外とは別世界の暖かさに体から力が抜けていく。部屋は20畳ほどの開放感あふれるワンルームで、眩しいほどに真っ白な壁紙にぐるりと囲まれていた。だけどどこか落ち着かない…

愛は記憶の中へ 32

さぁねって……。腕を組み、壁にもたれかかる姿はどこからどう見てもシャルルだわ。だけど声が違う、これはミシェルだ。当主の資格を失ったミシェルはあの後、マルグリット島へ送られたんだとばかり思ってたけどそうじゃなかったんだ。でもたしか資格喪失者っ…

愛は記憶の中へ 31

雪を纏った冷たい風が頬をなでていく。まさかこんな雪の中、スリッパのまま外に出されるなんて思ってもみなかった。当然くつ下なんて履いてない。足下から伝わる寒さにガタガタと膝がいい始めた。こうしている間にも体温は少しずつ奪われていく。本当に急い…

愛は記憶の中へ 30

「警備が見逃したのかもしれません。もう一度調べさせ……」 フレデリックの声が遠くなっていく。半円を描いたバルコニーは初代当主が薔薇の花びらをイメージして造らせたものだと聞いている。三階の部屋はすべて同じものだ。当然、オレの部屋も例外ではない。…

愛は記憶の中へ 29

あの部屋も認証システムを採用してはいるが、それは外からの話で中からは普通に開けられる。十中八九、美紗の目的は自分の立場を揺るがしかねないマリナの排除だ。なぜそこまでの考えに至ったのかは本人にしかわからないのだが。マリナがいつ部屋を出てしま…

愛は記憶の中へ 28

「万一の時のために救命チームの手配だ!」 オレはすぐ後ろを追ってきていたフレデリックに叫んだ。通常のゲストルームはどの部屋も鍵解錠だが、いくつかの限られた部屋は別の認証システムを採用している。今回マリナのために用意した部屋もそう、手指の静脈…

次話の予定と最近のきら

みなさん、こんにちは 今日も澄んだ秋空が心地いいですね。この時期は暑くもなく、寒くもなく本当に過ごしやすい春もいいけど花粉症があるからなぁ さて、ここ最近は月初と半ばを目標に更新していましたが多忙のため今回はペースダウンですいませんm(_ _)m中…

愛は記憶の中へ 27

「構わない。セシル、何だ?」 「はい。実は少し前にマリナ様をお見かけしたのですが、何か思い悩まれているご様子でした。とても寝過ごされているだけとは思えません」 「なぜそう思った?」 「それは……」 セシルは一瞬ためらいを見せたが、深く息を吸いこ…

愛は記憶の中へ 26

18時55分。普段から時間通りにここへ来ることはあまりない。むしろ仕事で遅くなることの方が多いくらいだ。そんなオレが今日は5分前に食堂へ来た。理由は一つ。だが、まだ来ていないようだ。美沙の姿しかない。オレは無意識に小さく息を吐いていた。誰よりも…

愛は記憶の中へ 25

「シャルル様、本日の夕食もシェフにお任せになりますか?」 執務室前でのやりとりはいつものことだ。御用聞きのメイドは執務室へ入ることは許されていないため、こうしてオレの出入りを待つことが多い。これは初代当主からの慣習であり、当主としての絶対的…

愛は記憶の中へ 24

あたしを邪魔だと言った時の彼女の気味の悪い笑みに背筋がぞくっとした。ただならぬ空気にあたしは後ずさりする。すると次の瞬間、彼女は両手であたしの肩を思いきり押してきた。バランスを崩したあたしは派手に後ろに転がってしまう。 「痛っっ!!いきなり…

愛は記憶の中へ 23

彼女の部屋に入ると真っ先に目に飛び込んできたのは足がうずまりそうなふわふわのスリッパだった。前にあたしがこの部屋を使った時と同じものだ。今あたしが使っている部屋のスリッパとはあきらかに違う。辺りを見渡せば当時の記憶がよみがえってくる。あの…

愛は記憶の中へ 22

案内された部屋は青色を基調とした清潔感のある部屋だった。部屋の入り口には同色のブルーのスリッパが用意されていた。昨日から歩きっぱなしの足でそれを履く気にはなれず、とりあえずシャワーを浴びようと浴室へ向かった。浴槽はなく、小さなシャワーブー…

愛は記憶の中へ 21

「そこまでだ。あとは日本へ帰ってからやるんだな。さあ、行くぞ」 試合を中断させる審判のように黒柴は両手を左右に掲げ、空を切るように振った。これで何もかも終わりだわ。シャルルと会うことも、フランスを訪れることもすべて。あたしは観念し、左右から…

愛は記憶の中へ 20

この声は……!思わず振り返った瞬間、懐かしさが胸いっぱいに広がった。あの頃よりも少しだけ伸びた髪、肩幅や首すじも十代の頃よりも逞しくなり、どこから見ても大人の男性だけど、繊細さを纏ったままの姿はため息が出るほど綺麗だ。そんなシャルルが眩しく…

愛は記憶の中へ 19

「さあ、行くぞ」 そういうと男は追い立てるようにあたしを後ろから押した。 「おいっ!ちょっと待て」 カークはそれを止めようと男の肩に手をかけた。だけど男はそんなことでは怯むこともなく、フッと鼻で笑うと慌てて口元を手で隠すような素振りをする。隠…

愛は記憶の中へ 18

「何をしているんだ?!マリナを離せっ!」 聞き覚えのあるその声に顔をあげるとアーモンド色の長い髪を揺らして駆け寄ってくる懐かしい姿が目に飛び込んできた。 「カ、カークっっ!?」 「あいつもお前の仲間か?!」 すかさず左側の男があたしの手を投げ…

愛は記憶の中へ 17

マリナがここへ来ていないということはやはりパスポートは被害に遭わなかったということなのか。マリナがフランスを出たという情報はまだ上ってきてない。つまりマリナはこの国のどこかに必ずいる。市内すべての宿泊施設を当たらせつつ、空港の出国データベ…

愛は記憶の中へ 16

「……田さん?池田さん?あの、フランスにお知り合いの方はいらっしゃいませんか?」 ぼんやりと思考の中を彷徨っていたら事務員の女性が心配そうな顔であたしを見ていた。 「あ、はい。いません」 「池田さんは金銭の盗難にも遭われたんでしたね。パスポート…

愛は記憶の中へ 15

ほどなくして女性職員が戻ってきた。 「大変お待たせしました。大使よりアルディ様にぜひ協力するようにと仰せつかって参りました」 「それは助かる。ではさっそくだが、、」 要件を伝えると上階の応接室へと促された。 「いや、あまり時間がないのでここで…

愛は記憶の中へ 14

驚いたわ。まさか本当にマリナって子が大使館にいるとは思わなかったけど、無理にでもシャルルさんについて来て正解だったわね。何よりシャルルさんが見つけるより先にこっちから仕掛けることがてきてよかったわ。あのマリナって子はシャルルさんに会いに来…

愛は記憶の中へ 13

パリ市内で車を停められる場所といえば歩道脇に一列に並ぶコインパーキングか地下駐車場がほとんどだ。どの施設もその建物自体に駐車場が完備されていることはほとんどない。日本大使館も例外ではなく、一般には開放されていない。オッシュ通りにある大使館…

愛は記憶の中へ 12

リシャールヴァラス通りからマアツマ通りへ抜け、エトワール凱旋門前を越えればオッシュ通り沿いにある日本大使館まではすぐだ。しかし年末ということもあってエトワール凱旋門までの道はだいぶ混雑している。 「テルヌ通りに出た方が良さそうだな」 「その…

愛は記憶の中へ 11

「オンマ、ブォレマ、ブァ、リー、ズ?」 突然、美沙が片言のフランス語を口にした。 「やっぱりわからないかな」 オレの反応を見て美沙は恥ずかしそうに俯いた。オンマ……ブォレマ……?頭の中で美沙の言葉を再現してみた。アクセントが違うせいでわかりにくい…

愛は記憶の中へ 10

美沙を連れてカフェを出たオレは、バガテル庭園を横目に見ながら庭園前にあるバスターミナルへと向かった。庭園内駐車場もあるがこの時期は年末の駆け込み需要なのか、やたらと混雑している。フレデリックには駐車場ではなくムーラン道路側にあるバスターミ…

愛は記憶の中へ 9

入口近くにあるウェイティングスペースは開放感のある大きな窓が外に向かって弧を描くような造りになっていて、パーソナルチェアが窓を背にいくつか並んでいる。ここからなら見れるのか。窓の外に目をやると、わずかだが確かにアルディ家の尖塔が見えた。辺…

愛は記憶の中へ 8

パスポートの再発行手続きには最低でも5日、場合によっては6日、いやそれ以上かかることもある。しかも受け取り可能かどうかは本人が大使館へ行ってみないことにはわからない。これは偽称や詐欺などの犯罪行為に悪用されることを避けるため、本人確認後にや…

愛は記憶の中へ 7

「彼女に深入りするつもりはないよ。それに……」 「それに?」 「いや。」 オレは言葉を飲んだ。マリナの代わりなどいるはずがない。だがそれをわざわざこの場で言うことでもないと思い直した。その時、カチャっと扉が開き、隙間から美沙がチラッと顔を覗かせ…

愛は記憶の中へ 6

「何これ?!凄く美味しいっ!前に食べたフォアグラと全然違うんだけど!しかもこのお肉、すっごく柔らかいね。」 「シャトーブリアンを使用したロッシーニ。フォアグラ・オアはアボカドを濃厚にしたような上品な舌ざわりでありながらさっぱりとした味わいだ…

愛は記憶の中へ 5

ミサに参加したのは初めてだったようで、帰りの車の中で彼女はしきりに教会での話をした。 「特に信者とかじゃなかったんだけど、さすがに敬虔な気持ちになるわね。キャンドルサービスって言うの?あんなにたくさんのロウソクを見たのも初めてだったし、聖歌…