きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い22

次の日、あたしは早くに目が覚めた。まだ東の空は白み始めたばかりだった。
昨日は結局、夕食も食べずにそのまま寝ちゃったもんだから要はお腹が空いて目が覚めたってわけ。
シャルルが他の部屋に行ったことはもちろんショックだったし、シャルルとの距離を感じて凄く寂しいって気持ちには変わりはないけど、別腹ってやつかな。
あれ、なんか違ったっけ?
あはは……。
まぁそんなわけでこんな時でも食欲だけは落ちないのよね。
ジルの事だからきっとあたしの分は別にとって置いてくれてるんじゃないかしら。そう思ってあたしはベットから起き上がった瞬間、目に違和感をおぼえた。見づらいのは事故直後からだから仕方ないんだけどそうじゃなくて瞼がやけに重たい。これはもしかしてやってしまったかもしれない。
そう、泣きながら寝たせいで目が腫れちゃったんだわ。シャルルは朝になったら迎えに来るって言ってたし、早いとここの目をどうにかしなきゃ。
そっと寝室を出て洗面所に行こうとしたあたしは部屋を出た直後に固まってしまった。
ここから見えるだけでもそれらしき部屋は六つ。その上、あたしはジルがどの部屋を使っているのか知らない。もし間違って開けたりしたらジルなら絶対に起きそうだわ。泣いたことは誰にも知られたくなかった。
物音を立てないようにリビングを横切った。たぶん洗面所とかトイレとかって入り口の近くにあるはずだからまずはそこから開けてみることにした。入り口のすぐ横のドアを開けてみた。するとそこはクロークルームなのかいくつも服が掛けられていた。きっとこれ全部シャルルのだわ。部屋中にシャルルの香水の香りがしているもの。

「おはようございます、マリナさん。何かお探しですか?」

ドアを閉めた途端、ふいに後ろから声を掛けられてあたしは飛び上がりそうになった。
腫らせた目を見られたくないけどドアは閉めちゃったし、ずっとこうしているわけにもいかずにあたしは仕方なくジルへと向き直った。

「おはよう、ジル。えっと洗面所はどこかなって……」

その瞬間にあたしが洗面所を探していた理由がジルには分かったのかシャルルによく似たその瞳に悲しげな色を映した。
それでもあたしは泣いたことを隠そうと必死で言い訳を口にした。

「な、なんか寝すぎたみたいで起きたらこんなになっててビックリよ!」

ジルはそんなあたしの気持ちを察してくれたのかあたしの手をとると、

「それでしたらすぐに解消できる方法があるので私の部屋に行きましょう」

ジルはきっとあたしが嘘を言ってるのは分かっているんだと思う。そうじゃなかったらあんな悲しげな顔をするはずがない。
それでも何も聞かずにいてくれる優しさに胸がじんと熱くなった。

「はい、これですっかり元どおりになりましたよ」

ジルはお姫様が持っていそうな綺麗な装飾が施された手鏡をあたしに差し出してくれた。

「本当ねジル。すっかり元どおりだわ。ありがとう」

ジルは小さく首を振るとにっこりと微笑んだ。まさか化粧水で瞼をパックするなんて思いつきもしなかったわ。

「私も寝すぎてしまった時などはよくこうしているのですよ」

ジルが寝すぎて目を腫らすなんて想像がつかないし、たぶんないんだと思う。
でもこの言葉はあたしのぽっかりと空いた心の隙間を埋めてくれるようだった。




つづく