きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い19

シャルルは自信に満ちた笑顔を見せながらあたしの目の前まで来ると、確かめるようにあたしの顔を覗き込んだ。

「オレが誰だか知っているだろう?」

それはこれまであたしが何度となく聞かされてきた言葉だった。

「シャルル……」

シャルルはそっと手を伸ばし、あたしの頬に触れた。

「マリナ、不安にさせてすまなかった。
君の視野欠損は細胞壊死によるものだ。
確かに今のままでは完治はありえない。
だが、オレが必ず治してやる。ただオレはこれ以上、日本に留まることは難しい。だからマリナ、オレと一緒にパリに行かないか?」

シャルルは真剣な眼差しであたしを見つめる。その瞳の奥には何かを決意したような強い光がほとばしり、あたしはそこに希望の光を見たような気がした。
完治はありえない……シャルルはそう言いながら一方では必ず治すと言っている。それが一体どういうことなのかあたしには全く分からないけど、シャルルが嘘を言ったり間違えたりするはずがない。だったらあたしはシャルルを信じてついて行けばいいんだ。

「ありがとう、シャルル。あたし、あんたと一緒にパリに行くわ」

こうしてあたしは明日、シャルルと日本を発つことに決めた。でも手術したばっかりで退院したり、飛行機に乗ったりして大丈夫なのかしらと思ったんだけどシャルルが言うにはオレがついているから問題はない、だった。

退院手続きを済ませたあたし達はその足で都内のホテルに向かった。
車寄せにハイヤーが滑り込むとホテルマンの人たちが出迎えてくれる中、あたしはシャルルに手を引かれて車を降りた。
エントランスを抜けた所で一人の従業員が足早にこちらに近づいて来た。

「アルディ様、ようこそお越し下さいました。本日はグランドスウィートルームのご利用と……」

シャルルに挨拶をするこの人はたぶん偉い人なんだろうな。
他のホテルマンの制服が黒色なのに、この人の制服だけが紺色に金の刺繍が施されていてとっても目立っているし、同色の帽子まで被っている。そんな人がシャルルの姿を見つけて慌てて駆け寄ってくるぐらいシャルルは凄い人なんだって改めて感じた。
今はこんなに近くにいるけど本当はとても遠い存在なんだ。
そっか、この目が元に戻ったら、その時が今度こそ本当にシャルルとのお別れなんだ……。
シャルルには大切な人がいる。
日本にまで届いてきた噂の恋人。うちにはテレビもないしあたしはまだ見たことはない。でもきっととても綺麗な人なんだろうな。そんな事を考えていたらホテルマンとの話が終わったのかシャルルに声をかけられた。

「マリナ、行くよ」

テルマンに案内された先には固く閉ざされた重厚な扉があった。
一般客とは明らかに隔てられた場所にあるこの扉はVIP専用口なんだとわかった。
その扉の向こうにはVIP専用のフロントとデスク、スウィートルームへの専用エレベーターがあった。

「それではアルディ様、ごゆっくりお過ごしくださいませ」

エレベーターの向こうでホテルマンは深々とお辞儀をしてあたし達を見送った。


つづく