きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い7

昨夜から降り続く雪はパリの街を白く染めていく。
あれから六年……またこの季節がやってきた。マリナと別れ、ルパートと共にパリへ帰国したあの日もこんな風にパリの街は白一色に染まっていた。

「今夜はノエルブランですね」

ふいに声を掛けられて自分がぼんやりしていた事に気付く。ジルがノックもせずに入室してくるはずがない。単にオレの意識がこの白の世界に囚われていたのだ。
天空から舞い降りてくる儚いそれらがまるでオレの意識を過去へといざなおうとしているようだ。
オレは自らを律した。
二度と振り返らないとあの日、誓ったはずだと……。

「あぁ、そうだな」

今朝届いたばかりの封書の中からオレでなければ判断できない案件を選りすぐりジルが執務室へと運んできた。
何百という封書が毎日のように送られてくる。すべてに目を通している時間はオレにはない。
目の前に差し出された封書に目をやると日本からの国際郵便だった。差出人の名前を見たオレはいつになく落ち着かない気持ちにさせられた。

「これは……」

オレは思わずジルの顔を見た。ジルも同じことを思ったのだろう。
ジルは何も言わずに静かにうなずいた。

ミシェとの一件でオレは唯一の友を失い、一度は手に入れた愛を手放した。
そしてオレに残ったのは父から譲り受けただけの地位と残りの人生を孤独に生きていくための誇りだけだった。
孤独と虚無の支配に耐えきれずにオレは夜の街へと逃げ込んだ。だがそれはただ虚しいだけのものだった。そんな日々がオレに圧倒的な嫌悪感を与えた。

アルディ家当主の荒んだ生活に業を煮やした親族連中がモザンビークからジルを呼び戻した。そして見事に彼女は親族連中の思惑通りオレの荒れた心を鎮めてくれた。長くオレの身代わりを務めていた彼女だからこそオレの心に寄り添い、静かに見守ることができたのかもしれない。そんな彼女が今、動き出そうとしていた。

「サンタからの贈り物か……」

オレは独り言のように呟いた。
オレと同じ色をした青灰色の瞳がきらりと光る。

「半日もあれば調査は完了します。今夜は最高のノエルになりそうですね」


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その日の夜、オレは調査報告書を手に聖なる夜を過ごした。
一度目にした物を忘れたりはしないこのオレが何度もそれに目を通した。
怒り、悔しさ、そして一つの希望を見つけた。

翌朝、オレはいつもより早く目覚めるとさっそくジルを呼びつけた。

「日本で開催されるこの他生物による特殊細胞再生会議に参加したい。手を回せるか?」

オレは手元の調査報告書をジルに差し出した。それを受け取るとジルはさっと目を通した。と、ある箇所で彼女の動きがぴたりと止まった。

共時性ですね」

不敵な笑みを浮かべてオレを見た。
共時性、つまりシンクロニシティだ。原因と結果とのつながりを説明するには困難であるが、単なる偶然と考えるにはあまりにも確率が低い出来事のことだ。
もしその共時性を意図的にコントロールされたとしたら人は何を思うのか。
オレはそれに賭ける。

「特殊細胞分野に関する資料を集めておいてくれ。明日から研究を始める」

この特殊細胞は万能細胞と並ぶ人類の未来を変えるであろう研究だ。そしてオレ自身の未来をも握っているのかもしれない。


つづく

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みなさん、こんにちは!

マリナちゃんは心配なところですが今回からしばらくシャルル視点です。
フランス語でノエルブラン、つまりホワイトクリスマス🎄のお話です。
ちょうど一ヶ月前のお話という設定です。