きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い27

「マリナさん、どうかしましたか?!」

あたしは慌てて溢れそうな涙を袖で拭い、俯いたまま前髪を触るフリをして顔を隠した。

「大丈夫よ、何でもないの」

思ってたよりも自分の声が涙交じりで焦った。これじゃジルに泣いてるって思われてしまう。
前にもこんな事があったな。
日本を発つ日の朝、泣いたことを知られたくなくてあたしは必死にそれを隠そうとしたんだっけ。
最近のあたし、泣いてばかりだ。
全てが後悔から始まっているからなのかもしれない。
とにかく一刻も早くこの場から離れようと思った。
これ以上惨めな自分を見られたくない。
ところがっ!
足に力が入らなくてどうにも立ち上がることができない。
きっと転落の時のことを思い出したせいで足が竦んでいるんだ。
あの時の靴音が耳に纏わりついてはなれない。
だけどこれはまずいわ。
だってさっさとジルの前から立ち去りたいのに肝心な足が動いてくれないんじゃ這って行くぐらいしか方法はない。
でもそれじゃ完全にジャパニーズホラーの世界じゃない。
さて、どうしようかと思っていたらジルは突然「失礼」と言うとあたしを抱き上げた。
ひぇーっ!
溢れそうだった涙も引っ込んでしまうぐらいあたしは驚いた。
ジルの一体どこにそんな力があるのかと思ってよくよく考えてみれば、あたしの体を支えている筋肉質な腕といい、さっきからあたしの腕に当たっている胸は全く膨らみを感じない。
ま、まさかっっ?!

「あんた、もしかしてシャ、シャルルっっ?!」

「もう少しだから静かにいていろ」

その声はしっかりとジルなのにその口調は明らかにジルではない。
そしてチラッと向けられたその視線の冷たさは背筋がゾワっとするほどだ。
もうこれはシャルル以外あり得ない!
でもどうして?!

そのまましばらく歩き、自動ドアを通り過ぎた所であたしは自分がどこに運ばれて来たのかを知った。
手前の部屋にはベットが置かれ、その向こうには大きなドーナツ型の機器やレントゲンの機器など、そして奥にはそれらの機器を操作する部屋が見えた。
シャルルはあたしをベットに腰掛けさせるように降ろすと見事な金髪をズルッと脱ぎ捨て、輝く白金色の髪を露わにした。
やっぱりシャルルだ。

「教えてシャルル。どうしてあんたはジルになっていたの?」

あたしの質問には何も答えずにシャルルは次々と機器の動作を確認し始めた。
その表情は固く、近寄り難い。
それでもあたしは見慣れない機器の無機質な感じに少しだけ不安を抱きつつ、シャルルがすることに間違いはないって思って黙ってその様子を見ていた。
一通りのチェックを終えたシャルルはあたしの前に立ち、再びあたしを抱き上げようとした。その態度にイラっとしたあたしはこれまでずっと抱えていた思いをシャルルにぶつけた。

「ねぇ、何も教えてくれないの?
これから何を調べようとしているのかも
どうしてそれが必要なのかとか何もあたしには言ってくれないの?
もうただの医者と患者だから説明なんて必要ないってこと?
あんたは再会した時からずっと冷たいままで、それだったら……どうしてあたしに構ったりするのよっ?!」

その瞬間、シャルルはビクッとして荒々しくあたしの両肩を掴み、食い入るようにあたしを見つめた。

「やはり思い出したのかっ!?」



つづく