きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は記憶の中へ 27

「構わない。セシル、何だ?」

「はい。実は少し前にマリナ様をお見かけしたのですが、何か思い悩まれているご様子でした。とても寝過ごされているだけとは思えません」

「なぜそう思った?」

「それは……」

セシルは一瞬ためらいを見せたが、深く息を吸いこみ、そしてゆっくりと吐き出した。

「マリナ様のお部屋は二階のはずです。ですがお見かけしたのは三階フロアでした。ご自身のお部屋に違和感を感じていらしたのではないかと。それに三階といっても」

そこで言葉を切るとセシルはちらりと美紗に視線を向けた。

「榎森様のお部屋の前でです。あのお部屋はーー」

あの部屋はーー前にマリナが使った部屋だ。セシルは美紗を気づかったのだろう。それ以上は言葉にはせず、静かに目を伏せた。
そうか、あの時《chambre M》の係に執事が選んだのはセシルだったのかもしれない。オレはシャンボールから電話でマリナ達を来賓として迎えるようにと執事に伝えただけだった。
結局、あの時は和矢は屋敷には戻らず、マリナだけが来たと執事から聞いた。
つまり当時を知るセシルは、マリナが部屋に不満を抱き、悲観したのではと考えたのか。
オレはマリナの使っていた部屋を《chambre  M》と名付け、それ以降、どの客にも使わせてはいない。 
すべてはマリナへの執着からだった。
屋敷の人間なら全員が知っていることだ。
その部屋が今回、美紗に使われることになり、セシルもまた他の使用人同様、オレにとって美紗がそういう立場の人間になったと考えたのだろう。
それをマリナの様子と結びつけ、こうして
会話に入ってきたというわけか。だがマリナにはまだ美紗のことは詳しくは話してない。今の段階ではまだマリナは何も気にしていないはずだ。
なんせ二人はほとんど面識がない。
大使館からの帰りもマリナはカークと共にフレデリックに任せ、オレはわざわざ美紗と別の車で帰ったほどだ。
美紗があの部屋を使っていることは夕食の時にオレからそれとなくマリナに匂わせるつもりでいた。もちろんそれはマリナの本心を引きずり出すためだ。
自分は簡易的なゲストルームをあてがわれ、いくらマリナでも何も感じないはずはない。ましてやパリにまで来た理由を推察すればなおさらだ。

いや、待てよ。何かが違う。
マリナはなぜ三階へいた?!
心臓がドクンッと鼓動した。
オレは隣の美紗を振り返った。

「君は一度だけオレから離れた。大使館で手洗いへ行った時だ。その時、君は偶然にもオレより先にマリナを見つけたのか?そうなのかっ?!」

「し、知らないわよ」

バガテル城のカフェで盗難に遭った人物がマリナである可能性が強まり、オレはマリナを探すことに必死になった。
美紗がマリナを強く意識しているのはわかってた。
オレはそれを逆に利用しようとした。夕飯の時に接点のない二人を会わせれば美紗はきっと何か仕掛けてくると睨んでいた。
たがオレが考えてたよりも前にまさか二人が接触していたとは。
マリナの口から本心を言わせるつもりでいたはずが、言えなくさせていたのは美紗を連れ歩いていたオレだったんだ。
直後、オレは食堂を飛び出していた。
だからマリナはあの時、カークに会いに来ただなんて言ったのかもしれない。
美紗の前でオレに会いに来たとは言い出せなかったんだ。あらゆる場合を想定しながら階段をかけ下りる。
あの部屋なら大丈夫だ。
窓はフィックス窓で開閉は不可能な上に、強化ガラスだ。絶対に割ることはできない。浴槽での事故も想定し、そもそもシャワーブースしか設置していない。
風呂嫌いなマリナにはちょうど良いだろうとも思った。
だからマリナにあの部屋を選んだんだ。

 


つづく