マリナがここへ来ていないということはやはりパスポートは被害に遭わなかったということなのか。
マリナがフランスを出たという情報はまだ上ってきてない。つまりマリナはこの国のどこかに必ずいる。
市内すべての宿泊施設を当たらせつつ、空港の出国データベースに侵入し、マリナの情報アクセス権を凍結させてしまうか。そうすればパスポートの機能は停止し、完全にマリナの出国を止められる。
だが、そこまでした先にあるものは一体……。
鈍い痛みが胸をかすめていく。
それでもここまで来た以上、確かめずにはいられない。
本人の口から聞いておきたいことがある。
ーーなぜ君はパリへ来たのかとーー
「シャルルさんお待たせ。それで知り合いの人はどうだったの?」
トイレから戻った美沙が駆け寄ってきた。
何にせよ先に美沙の再発行の手続きを進めてしまおう。パスポートさえ受け取ってしまえば、あとはフレデリックにでも空港へ送らせればいい。
美沙にマリナの面影を重ねていなかったのかと言われれば否定はできない。むしろ懐かしささえ感じていた。だからといって今も美沙に特別な感情があるわけではない。
だがマリナがこの国にいると分かった今、美沙を連れているところは見られたくはない。小さな芽さえ摘まずにはいられないオレがいる。
たとえマリナがそんなこと一つも気にしなくてもだ。
「残念ながらここへは来ていないようだ。別の方法で探すことにするよ。それより先に君のパスポートを受け取ってしまおう。そこのインフォメーションで受付してくれる」
すると美沙は困った顔を作り、まるで猫のように擦り寄ってきた。
「そのことなんだけど今日はできないんじゃないかと思って。再発行って戸籍謄本や印鑑、それにお金なんかも必要なんでしょ?あたしそういうの持ってないしさ。とりあえず実家に連絡して必要な物をシャルルさんの家に送ってもらおうかと思ったの。だから全部そろえて年明けにでもまた来ようかなってね」
「それなら心配はない。すべてこちらで揃えてある」
「え?いや、でも……」
美沙は慌てたように言葉につまらせた。
「どうかしたか?」
「ううん、でもいつの間に?シャルルさんとはずっと一緒だったのに」
「オレの代わりにジルに動いてもらっていた。ただ受け取りだけは本人でなければできないからね。それで今日は君を連れてきたってわけ」
美沙と共に再びインフォメーションへ向かうと今度は男性職員が立っていた。これまでの経緯を話すと、
「 再発行手続きは本来であれば、このフロアの奥の受取カウンターで行うのですが、ついさきほど何かの事件があったようで現在は3階で仮カウンターを設けて業務を行なっております」
男性職員の指差す方に目を向けた。
「大使館内で事件などあるのか?」
「ええ、それが……どうやらもともとは盗難被害の方らしいのですが騒いでいるらしく」
嫌な予感がした。
まさか?!
「そいつは女か、それとも男か?」
「若い女性らし……」
男性職員の言葉を最後まで待たずにオレは駆け出していた。
つづく