きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は記憶の中へ 19

「さあ、行くぞ」

そういうと男は追い立てるようにあたしを後ろから押した。

「おいっ!ちょっと待て」

カークはそれを止めようと男の肩に手をかけた。だけど男はそんなことでは怯むこともなく、フッと鼻で笑うと慌てて口元を手で隠すような素振りをする。
隠す気なんて最初からないくせにわざとそうやったんだ。
ここが日本だっていう後ろ盾があるからだ。男たちはフランスの警察官、しかも警視だと言ったカークに対しても怖気ずく様子などまったくない。

「ルーカス警視、これ以上われわれの邪魔をされるのであれば日本国大使館より正式にパリ警視庁へ抗議させていただくことになりますが」

カークは男の肩を掴んでいた手を忌々しげに離し、唇をぎゅっと噛みしめた。
状況は悪化するばかりか、国際問題にまで発展してるじゃない。
とにかく今は男たちの言う通りにした方が良さそうだ。

「カーク、あたしなら大丈夫だから心配しないで」

「マリナ、行ったらだめだ。このままだと二度とフランスへは入国できなくなるぞ」

「……えっっ?!」

「一度でも大使館内でトラブルを起こし、強制退去されたとなれば当然それは記録として残され、二度と渡航許可は下りない」

カークの言葉にあたしは息を飲んだ。
胸の奥がざわざわと、どうにも落ち着かなくなる。
二度とフランスに来れなくなる……?
それって、つまり、二度とシャルルには会えなくなるってことだ。
だけどこの先あたしがフランスへ来ることなんてきっともうない。
あれから4年。
シャルルにはしっかりと婚約者がいた。
当然といえば当然なのかもしれない。
それなのにあたしは……いつまでもあの時の言葉が忘れられずにここまで来てしまった。バカよね、あたしったら。
『永遠』だなんてその場の雰囲気というか勢いというか、そういうものだってあたしだってわかっているわよ。
でも……。
シャルルならあり得るんじゃないかって思ってしまったの。だってシャルルが永遠だって口にしたってことはそれはもう永遠なんだとあたしは自分で自分に都合の良いように解釈してしまっただけ。
これできっと吹っ切れる。
諦めるにはちょうど良かったのかもしれない。二度とフランスに入国できないなんてあたしにしてはずいぶん派手な終わり方だったわね。
それでも最後にカークにだけでも会えて良かった。

「ありがとうカーク。もういいの。二度とここへ来ることはないだろうけど、せめてカークにだけでも会えてよかった」

「マリナ……もしかして、あいつに会いに?それならきっと……」

きっと……困るだろうな、でしょ?
今のシャルルにとって、あたしは婚約者にはあまり会わせたくない存在だものね。
大丈夫、そんなことわかってるわ。

「ううん、違うのよ」

あたしはとっさにカークの言葉を遮った。カークにこれ以上、何か言われたりしたら惨めすぎる。

「では、なぜここへ来た?」

どこからか透明感のある凛とした声が響き渡った。

 

 

つづく