きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は記憶の中へ 24

あたしを邪魔だと言った時の彼女の気味の悪い笑みに背筋がぞくっとした。
ただならぬ空気にあたしは後ずさりする。すると次の瞬間、彼女は両手であたしの肩を思いきり押してきた。
バランスを崩したあたしは派手に後ろに転がってしまう。

「痛っっ!!いきなり何するのよっ?!」

「言ったでしょ、邪魔だって。しばらくそこでそうしているのね」

そう言い放つと彼女は身を翻して部屋の中に入ると扉を閉め、ガチャっと鍵を掛けてしまった。
冗談じゃないわ!
こんな所にいたら明日の朝には確実に冷凍人間のできあがりじゃない。

「ちょっと、開けなさいよ!」

あたしは慌ててかけより、バンバンと思いきり扉を叩いたけど、ここは天下のアルディ邸。扉はびくともせず、窓は強化ガラスなのか、ヒビ一つ入らない。
そんなあたしをガラス越しに見ていた彼女はフッと勝ち誇ったかのような笑みを浮かべると、シャッと勢いよくカーテンを閉めた。
部屋の灯りが届かなくなったバルコニーには薄闇が広がった。
カーテンの隙間からこぼれる僅かな灯りだけが今は頼りだった。
まだ日が暮れて間もないけど、すでに気温は低くなり始めている。
このままだと本当に危ないってことだけはわかる。
内がだめなら外だわ。
あたしは手すりに近づき、よいしょと下を覗いてみた。
目がくらむほどの高さじゃない。これなら行けるんじゃないかな。
だけど足からいったらさすがに折れそうよね。むしろこの石頭なら折れずににいけるかしら。
いや、折れないというか、パックリと割れちゃいそうね。
そうなるとやっぱりお尻から行くが一番いいのかしら。
たとえば手すりを越えて向こう側に立って、手すりのギリギリの所ににぶら下がれば、二階から降りたぐらいの衝撃で済みそうよね。しかも足を丸めればお尻からうまく着地できそうだし。
でも、もし失敗したら?と考えてみたものの他に方法はなさそうだった。
数分、悩んでいただけなのにぶるっと身震いがした。
ライトアップされた中庭の灯りの中、辺りにはちらほらと小雪が散らつきだした。
かじかむ手を擦り合わせ、息をふうっとかけた。
ゲホッゲホッ……。
自分を落ち着かせるために深呼吸をした途端、冷たい風にむせ返った。
じっとしていると足元から冷気がじわりじわりと伝わってくる。
その時スッと彼女の部屋の灯りが消え、あたしはあることを思い出した。

「19時には食堂へお越し下さい」

そうだ。
部屋に案内された時にメイドさんに言われたんだった。そろそろディナーが始まる時間ってことじゃないのっっ!!
つまり彼女は食事の時間が近づいてきたから食堂へ向かったってことよね。
あたしもこんな場所で、もたもたなんてしてらんないわ。
早くなんとかしないとあたしの分がなくなっちゃ……じゃなくて、次に彼女が部屋に戻ってくるのは2時間後よ。
そんなのを待ってたら本当に冷凍人間への階段を登りきってしまうわ。

 

 

つづく