きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は記憶の中へ 33


「来い」

先に立ってミシェルが部屋の中へ入って行く。あたしも続いて部屋に入った。
外とは別世界の暖かさに体から力が抜けていく。
部屋は20畳ほどの開放感あふれるワンルームで、眩しいほどに真っ白な壁紙にぐるりと囲まれていた。
だけどどこか落ち着かない印象をうける。それがなぜなのかはすぐにわかった。
広さのわりに圧倒的に物が少なく、生活感がないからだ。
これほどの広さならソファセットとかキャビネットぐらいあっても良さそうなのに家具と呼べる物は数えるほどしかない。
ベットとナチュラルデスクが壁際に寄せられてぽつんとあるだけだ。

「ベットは人生初のシングル、風呂は三点ユニットバスだ。これがアルディの最上階の部屋だなんてありえないだろ?」

三点ってことは浴槽が三つあるってこと?あたしだったらあまり嬉しくはない。メリットはいろんな入浴剤が楽しめるってことぐらいかしらね。
そもそもお風呂は好きじゃないし、三つもあったらお風呂洗いも大変よ?!
あたしがそういうと、ミシェルは目を細め、鋭く青灰色の目を光らせた。

「三点ユニットとは浴室内に洗面台とトイレが収まっているタイプのことだ」

ビジネスホテルとかによくあるタイプのやつか。
たしかに信じられなかった。
まさかこの階にそんな部屋があるなんて。
しかもベットも机もいかにも古そうな物だ。
ミシェルが自ら選んだとは思えないし、このお屋敷のイメージとまったく合ってない。

「オレはまるで羽をもがれた蝶だ。だからお前はそんなオレの羽になれ」

「どういうこと?」

「まぁ、いい。それより……」

そういうとクローゼットからコートを取り出し、それをあたしの方へ放り投げた。

「これでも着てろ。空調が効いてるからそれで十分だろ。本当は風呂で温まったり、濡れた服は着替えた方がいいんだが、下手に誤解されてこれ以下の生活は勘弁だからな……」

ミシェルはぶつぶつと何かを言ってるけど、それよりもあたしは渡されたコートの暖かさに驚いた。
手ざわりだけでも最高級の物だと想像できる。ウールだけどただのウールじゃなさそう。

「あ、ありがとう」

でもこれを買えるぐらいならベットぐらい好きな大きさの物も買えそうなものだけど、もしかしてミシェルはお小遣い制なのかしら。
それにしてもミシェルはあの頃とは別人のようだわ。
そうこうしているうちに次第に震えも止まり、さらにミシェルの作ってくれたホットココアであたしは完全に復活した。

ミシェルの話ではあの時、当主の資格を失ったもののマルグリット島への幽閉はシャルルの判断で見送られたんだって。

「代わりに検察当局に握られた政治工作の疑惑を揉み消すことが移送中断の交換条件だった。その間、シャルルはグノームの聖剣奪還に全集中することができ、見事に成功させた。その結果、親族会議の後押しもあってシャルルは再び当主に復権、オレは今も処分保留のままだ」

それでミシェルはパリにいたってわけね。
シャルルはあの時に失ったすべてを自身の手で取り戻していたんだ。
ゆるぎない自信に満ちあふれていたシャルルの微笑みをあたしは思い出していた。
あのシャルルの背中を見送ってから数ヶ月。あたしは自分の選んだ道をひどく後悔することになった。そしてその過ちをどうにかしようとここまで来た。
でもそれはもう叶いはしない、夢となってしまっていた。
シャルルの隣には美紗さんがいる。


その時、扉の方からピピっと電子音が鳴った。

「意外と遅かったな」

扉に向き直りミシェルは言った。

「この部屋は外からの電子ロックが掛かっていて中からは開けられないからな。オレはこうして閉じ込められたまま、あれであいつの仕事を手伝わされている。信じられないだろ?」

そういうとデスクの上のパソコンに目をやった。

「しかもあのパソコンはあいつのLANケーブルで制御されていて外部との接触はおろか、仕事以外の操作はパスワードでロックされていてこの部屋からの脱出は不可能だ。いくらオレでもお手上げってわけ」

ドアが勢いよく開けられ、その姿を目にした瞬間、あたしの頬を涙が伝った。

 


つづく


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みなさん、こんばんは!

今回が今年最後の更新になります。
また、いいところで持ち越してしまって本当にごめんなさーい(>_<)

今年はコロナの影響でたくさんの我慢をしましたよね。人とのつながりの大切さを改めて感じた一年でした。
私もみなさんの応援のおかげで今年も創作を続けることかできました。
来年は早々に更新を始めていく予定です。
二人のつながり\(//∇//)\イチャイチャ❤️も書きたいなぁ。
やっぱりシャルルBDはサクッとハッピーにしようかな😊書きたい話のイメージはたくさんあるんだけど、書く時間と能力がないのがね😅

日に日に寒くなってきているのでどうぞお身体をご自愛くださいませ。
それでは、みなさん良いお年を♪