きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は記憶の中へ 11

「オンマ、ブォレマ、ブァ、リー、ズ?」

突然、美沙が片言のフランス語を口にした。

「やっぱりわからないかな」

オレの反応を見て美沙は恥ずかしそうに俯いた。
オンマ……ブォレマ……?
頭の中で美沙の言葉を再現してみた。
アクセントが違うせいでわかりにくいが、(On m’a volé mon sac ma valise)
ーースーツケースを盗まれたーーか。

「アクセントに多少のクセはあるが通じないこともない」

「フランス語の発音って綺麗なんだけど、難しいのよね。だからシャルルさんの知り合いの人も警察署には来たけど言葉が通じなくて、やっぱり諦めて大使館に行ったんじゃないかな」

彼女なりに考えたのだろう。
それは確かにそうなんだが。

「その可能性はあるが、君の時と違って大使館へ行くには少々問題があってね」

「問題って?」

「ここからだとかなり距離があるんだ。歩くとすれば2時間はかかる」

「え、そんなに遠いの?」

だから和矢が一緒なら先に警察へ行くと考えた。その後、警察で発行してもらった紛失盗難届証明書を持って大使館に行けばパスポートの再発行申請は完了する。
つまり警察に来てないということは、やはり先に大使館に行ったことになり、マリナが一人でいる可能性が高い。
だけど美沙に話したように、ここから大使館まではかなりの距離がある。
マリナが一人で電車に乗れるとは思えないし、乗り換えのあるバスなんてなおさら無理だろう。
となると、歩いたのか?ということになるが、直線距離にして約8キロ弱。
マリナの足だと2時間ぐらいか。
歩けなくもないがパリの道に明るいとは思えないマリナがどうやって大使館まで行ったのか……。
ふとあの時のことがフラッシュバックした。瀕死のオレを救うためにマリナは、ランブイエからオルレアンまで自分の足だけで何とかたどりついた。
おそらく90キロ近くはあっただろう。ほぼ一日中歩いても足りないぐらいだったはずだ。それなのにマリナは無事にアデリーヌをオレの元に連れてきてくれた。
マリナならこのぐらい歩こうとしたかもしらない。
ただ、心配なのは盗難に遭ってからすでに一日が経過しているということだ。
しかも大使館は明日からしばらく休館だ。
急いだ方がよさそうだな。
これまで目を背けてきた現実と向き合う覚悟を決め、オレはジルに電話をかけた。

「マリナの戸籍の記載事項とフランスへの渡航記録をすぐに調べてくれ」

あれから4年。
二人の動向については一切触れずにきた。
すでに池田ではない可能性は十分にある。
しかも黒須とも限らない。
ただ、そこがはっきりとしないとマリナの居場所はつかめない。

これから先も触れることはないと思っていた事実を前にオレの心は揺れ動く。

「とにかく大使館へ行こう。君のパスポートの再発行もある。今日を逃すと帰国が年明けになってしまうからな」

 

 

つづく