きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は記憶の中へ 13



パリ市内で車を停められる場所といえば歩道脇に一列に並ぶコインパーキングか地下駐車場がほとんどだ。
どの施設もその建物自体に駐車場が完備されていることはほとんどない。
日本大使館も例外ではなく、一般には開放されていない。
オッシュ通りにある大使館前のコインパーキングも他の場所と同様で隙間なく車列ができていた。
縦列駐車をするこのタイプのパーキングは車上荒らし接触事故、いたずらなどの被害に遭いやすくオレはほとんど利用したことがない。
とりあえず美沙を連れて降りることにした。

「どこか適当な所で待っていてくれ。終わったら連絡する」

「承知しました。この近くにアルディ家所有の地下駐車場があるので、私はそちらで待機しています」

車から降り、祈るような思いで大使館を見上げた。何かマリナにつながる情報が手に入るといいのだが。
正面玄関を入るとすぐのところにインフォメーションがあった。その前には長椅子が置かれている。
何人か座っているのが見えるが、その中にマリナの姿はなかった。

このインフォメーションでパスポート再発行申請や在留証明発行などそれぞれの相談内容に応じて各セクションへと振り分けられ職員が対応するようになっている。
また必要に応じて警察や弁護士、通訳の紹介なども行なっているため、海外でトラブルに巻き込まれたら大抵の人間はこの場所を訪れるはずだ。
インフォメーションに駆け寄り、女性職員に声をかけた。

「知り合いの日本人を探している。池田という名の女性がパスポート再発行手続きに来ていると思うんだが調べてもらいたい」

すると女性職員はそういったことは個人情報を含むため教えることができないと言った。
やはりそう来るか。
いくつか手はあるがあまり時間をかけたくはない。さっさとこの場を切り抜ける方法はあれしかないか。
オレは名刺を取り出し、メッセージを書き添えて女性職員に渡した。

「これを大使へ。国立病理研究所のアルディが来ていると伝えてくれ」

女性職員は手にした名刺にさっと目を通すと慌てて言った。

「少々お待ち下さい」

隣で美沙が不思議そうな顔でオレを見上げる。

「ねぇあの人ひどく慌ててたみたいだけど、名刺に一体何て書いたの?」

「オレの名前だよ」

「何それ?名前なら名刺に書いてあるじゃない?それなのになんでわざわざ書いたりするの?」

「あれは外務大臣の名刺なんだ。そこにオレのサインを入れたってわけ。日本人はこういう上からの圧に弱いからね。ちょっと使わせてもらった」

「シャルルさんて、意外と強引なのね」

「アルディの直系だからな」

美沙はふぅんと関心がなさそうにいうと辺りを見渡して言った。

「あたし、ちょっとお手洗いへ行ってくるね」


*****

「あの……すいません。もしかして池田さんじゃないですか?」

「えぇ、そうですけど。あなたは?」

トイレを済ませて、手を洗い終えたところで突然、順番待ちをしていた女性に声をかけられた。

「私は榎森美沙と言います」

「榎森さん?あの、ごめんなさい。どこかでお会いしたことありましたっけ?」

まったく見覚えはなかった。

「いえ、私もあなたにお会いするのは初めてなのですが、マリナさんのことはシャルルさんから聞いています」

シャルルから?!
どうやらこの知的な感じの女性はシャルルの関係者みたい。
もしかして秘書?
シャルルと仕事でここに来ているとかかしら?

「あの榎森さん、もしかしてシャルルもここにいるの?!」

「シャルルさんも一緒に来ていますよ。私の滞在許可証の申請に付き合ってくれているんです。私達がいくら婚約したといっても大使館に申請をしないと日本人の私は不法滞在になってしまいますから」

「えっ……?」

目の前がぐわんと歪んだようにみえた。
頭の中が白くなるとはこういうことをいうんだ。
シャルルが婚約?
そっか……そりゃ、そうよね。
あれからもう4年も経っているんだもの。
それにしてもシャルルが日本人を選んだだなんて複雑な気分。

「マリナさん?」

「あっ、ごめんなさい。あたしもう行かなきゃ。シャルルにもよろしくね」

あたしは溢れそうな涙を懸命に堪えて、その場から逃げるように駆け出した。

 

つづく