きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は記憶の中へ 12


リシャールヴァラス通りからマアツマ通りへ抜け、エトワール凱旋門前を越えればオッシュ通り沿いにある日本大使館まではすぐだ。
しかし年末ということもあってエトワール凱旋門までの道はだいぶ混雑している。

「テルヌ通りに出た方が良さそうだな」

「そのようですね」

フレデリックは滑らかに車線を右へ右へと変えていく。それでも右折レーンはオレ達同様、渋滞を避けようとする車で長い列を作っていた。

「ここからでも凱旋門が見えるんだね!たしか、上れるんだっけ。行ってみたいな。シャルルさん、帰りに寄るのはだめ?」

ふと窓の外を見ていた美沙がオレを振り返り、甘えたような声で言ってきた。

「知り合いが事件に巻き込まれている可能性があると言っただろう。今はそちらに集中したい」

オレが窘めるようにいうと美沙の目に不満げな色が浮かんだ。
だがそれも一瞬で、美沙はすぐにいつもの懐っこい表情を見せた。

「そうだよね。あたしったらこんな時にごめんなさい。早く知り合いの人が見つかるといいね」

気まずい空気の中、携帯の着信音が鳴り響く。

「オレだ。何かわかったか?」

ジルからの報告だった。

「ええ。例の女性はマリナさんの可能性が高いですね。池田麻里奈という名前の女性が昨日の早朝の便で入国しているのを確認しました」

やはりマリナはパリへ来ていた。
ジルの話によると搭乗者名簿は池田で登録されており、隣席は空席、一つ開けた通路側にフランス人女性の名前があったらしい。つまり戸籍の変更もなく、マリナは一人で来たということになる。

「わかった。オレはこれから大使館に向かう。マリナが立ち寄ったかもしれない。それにうまくすればまだ大使館にいるかもしれない」

「ではこちらは警察と入国管理へ連絡を入れておきます」

もし貴重品以外の物を盗まれたとすれば、被害届を出さずに済ませる場合もある。
パスポートと金さえあれば、帰国することも可能だ。

「頼む。何かあれば連絡してくれ」


***

通り沿いにビルがずらりと立ち並んでいる中、ひらひらと日の丸の旗が揺れているのを見つけた瞬間、これまでの疲れが吹き飛ぶような気がした。
時計を持っていなかったから今がいったい何時なのか分からないけど、さっきから腹の虫がグウグウと騒いでいる。

パリに着いて早々、パスポートを入れていたバックごと盗まれてしまい、ここに着くまでとにかく色々あって大変だった。
犯人はあっという間に走って逃げちゃったし、犯人を追ってめちゃくちゃに走ったおかげですっかり迷子にはなるし。
幸いお財布だけは首からぶら下げてしっかりとブラウスの中に入れていたから無事だったんだけど、それでもパスポートがなきゃ日本に帰ることもできない。
それですぐに警察を探して行ってみたんだけど、フランス語がまったくわからなくてどうしていいかわからずにいたら、親切な警察官の人が大使館までの地図を書いてくれて、それを見ながらあたしはなんとかここまでやって来たってわけ。

大使館の入り口には金色のプレートが掲げてあって日本国大使館って書いてあった。
中はまるでホテルのロビーのようだった。案内表示も日本語とフランス語と両方で書かれていて何だか安心する。
中に入り、受付の人に事情を話すと番号札を渡された。
壁に沿って長椅子が置かれていて日本人と思われる人たちが何人か座っていた。
まだ時間もかかりそうなのであたしはとりあえずお手洗いに行くことにした。

 

 

つづく