きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は記憶の中へ 30


「警備が見逃したのかもしれません。もう一度調べさせ……」

フレデリックの声が遠くなっていく。
半円を描いたバルコニーは初代当主が薔薇の花びらをイメージして造らせたものだと聞いている。
三階の部屋はすべて同じものだ。
当然、オレの部屋も例外ではない。
だが、普段から見慣れているはずなのに、何か引っかかる。
何だ?この違和感……。
オレは目の前の景色に意識を集中させた。
雪が散らつき始めたのは、たしか夕暮れ時だったか。
大使館を出た時はまだ降りだしてなかった。その後オレは執務室でずっと仕事をしていたため、外には一歩も出ていない。
実際に降り始めた時間が知りたければ気象情報局へ問い合わせすればいいだけだが、そこまで正確な情報は今は必要ないだろう。
辺りの木々は降りつづく雪をふわりと抱え込み、まるで白い衣装に着替えたかのようだ。
半円を描き、突き出した手すりにはすでに雪が積もり始めていた。
待てよ。
オレは足元に視線を落とす。その場に片膝をついた。明らかに手すりの上に積もる雪よりも量が少ない。風もなく、吹き込む角度を考えてもここまでの差はないはずだ。
一つの可能性が閃光のように駆け抜けた。
オレは立ち上がり、辺りを見て回った。やはり場所によって積雪量がわずかに違う。
雪が降り出してから誰かがこの場にいたのは確かだ。
だが足跡と言えるほどのものはもう残ってはいない。すべては雪にかき消されてしまっている。
それでもかなり広い範囲だ。
歩き回ったのか?
でも、なぜ。
次の瞬間、心臓の鼓動が激しくなった。
美紗とマリナはここでもみ合いになったのか?その内の一人が食堂にのこのこやって来たということは……!
オレは手すりに駆け寄り、そこから下を覗き込んだ。オレの様子からフレデリックも何かを察したのだろう。
同じように手すりから身を乗り出し、何もないことに安堵のため息をもらした。
マリナがここから突き落とされたのではないかと一瞬考えた。
だが、ホッとしたのも束の間だ。この数分間で雪は牡丹雪に変わっていた。
のんびりとしている時間はどちらにしてもなさそうだ。

「シャルル様、突き落とされたものの無事に着地できたということは考えられませんか?雪がクッションになった可能性も」

「いや、数センチ程度では関係ないな」

再確認するように手すりの上の雪に目を向けた。そして手すりの一部にまたしても積雪の少ない箇所を見つけた。
幅にして50センチほどか。すっぽり抜け落ちたように積雪が少ない。

「まさかっ!?」

身をひるがえし、オレは《chambre M》を出た。

 

つづく