きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い35

あたしだけを大切だと言ってくれたシャルルの想いが痛いほど伝わってきて胸がいっぱいになった。
優しく包み込む腕はあたしを愛しいと言い、鍛え上げられた広い胸はあたしを守る、と言ってくれているようだった。
だけど、シャルルの纏っている香りだけが想いを伝えようとするあたしを踏み止まらせる。
まるで霧の中をシャルルに手を引かれて歩いているみたいだわ。あたしはこの手を信じていいの?
日本で再会したばかりのシャルルと今のシャルルとではだいぶ印象が違う。
やっぱり彼女と関係があるの?
あたしはシャルルの腕の中から顔を上げた。

「ちょっと待って。彼女とは婚約までしたんでしょ?それなのにあたしが大切ってどういうこと?」

するとシャルルはそんな事かって顔をした。

「ミレーユとはたしかに婚約状態ではあったが結婚と恋愛は別の話だからね。それに君の記憶が戻った時点でそれも解消した」

「せ、政略結婚だったのっ?!」

自分の声の大きさに驚き、慌てて手で口を覆った。あたしはてっきり二人は愛し合っているんだと思ってた。
そういえばあたしの記憶が戻った時、シャルルは自分の想いがどうとかって言ってた。
でもどういうこと?
日本でもマスコミが騒ぎ立てていたわ。
政略結婚ならそんな浮ついた話も出ないと思うけど。
だって遅かれ早かれ結婚することには変わりないんだもの。騒ぐ必要なんてないわ。

「でも二人の事は日本でもすごく話題になってたわ。恋の行方に日本中が注目してたって感じよ」

「だろうね」

だろうね、ってどういうことよ?!
さらりとそう言うとシャルルはあたしを囲っていた腕を解き、徐ろに立ち上がり窓際に置かれたデスクに近づいて行く。
もう、全然わからないわ。
シャルルがいなかったら、両手で髪を掻きむしりたい気分よ。
シャルルは引き出しから何かを取り出すと再び戻って来た。

「これがすべての始まり」

そう言って差し出されたのは見た目はただの白い封筒。
表にはCharles de Haldy と書かれていて右下にはPar Avion って文字が見える。シャルル宛なのは何となく分かるけどもう一つ方は分からない。

「何これ?」

何の気なしに裏返してみるとそこには懐かしい人の名前が書かれていた。
黒須和矢。
胸がざわつく。
あたしはおずおずと封筒を開いた。中から上質な白い紙を取り出す。シャルルを仰ぎ見ると「開けてごらん」と言うかのように小さく頷く。
あたしはゴクリと息を飲み、二つ折りになっていたそれをそっと開いた。

「これっ……」

シャルルは再びあたしの隣に座ると静かに頷いた。

「そう、結婚式の招待状だ。クリスマスの日、それだけが送られてきた。手紙の類は同封されていなかった。もちろんオレ達の友情はあの時、終わらせたままだ。和矢はオレが行かないのは分かっているはずだ。それでもこれを送ってきた意味が分かるか?」

知らなかった。もう和矢とは何年も会ってないし、もちろん連絡もとってないんだから当然だわ。

「分からないわ」

「和矢は君をオレに託そうとしたのさ。自分は新たな道を歩み始める。だからマリナを頼むとね。和矢はオレの君への想いが一生変わることはないと分かっていたんだ。これは、もう一度君を手にするためのオレへの招待状だったんだ」

和矢と別れたのは五年前。
一時の感情で和矢を選んだものの、幸せな時間はそう長くは続かなかった。
シャルルへの想いが日に日に増していったあたしはついには会うことさえしなくなったんだ。
別かれを切り出した時、和矢はあたしに何も聞かなかった。
きっとあたしの想いに気づいていたんだ。
この手紙をシャルル宛に出す時の和矢の気持ちを考えると胸が締め付けられるようだった。
五年たった今でも和矢はあたしの事を気にかけてくれていたんだ。

「これを見た時は愕然とした。君の幸せを願い、この身を引き裂かれるような思いで君を手放したはずが、和矢の隣にあるはずの君の名はどこにもなかった。
それでオレはすぐに君のことを調べさせた。そして君が和矢と別れた後もずっと一人でいると知った。オレは居ても立っても居られずに日本へ行くことを決めたんだ」



つづく