きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い36

シャルルが日本に来たのはあたしに会うためだったんだ。
でもなんで彼女を連れて来たりしたんだろう?
そう思った瞬間、嫌な予感がした。
フランスって愛に自由と言うか、寛大な国と言うか。
たしか、シャルルのおじいさんもそういったのことに自由な人だった気がする。

「もしかしてあんた、あたしに愛人にならないかって言いに来たの?」

シャルルは参ったというように額に手をあてた。

「どうしてそうなるんだ……」

「だって彼女連れで堂々と会いに来るなんて普通はしないでしょ?
だから彼女も承知の上だったのかなって」

シャルルが今でもあたしのことを想ってくれてたのは嬉しいんだけど、これじゃ手放しに喜べないわ。

「いや、彼女は違うんだ。ずいぶんと誤解があるようだ。順を追って話すよ。まさか己の策に追い詰められるとはな。やはり一般心理学では君の思考を計ることはできないね」

そう言ってシャルルは自嘲的に笑うと、これまでのことを話し始めた。

「まず、オレは出版社主催のイベントに君が行くことを知り、同じビルで開かれるシンポジウムに参加できるように手を回した。
市のほぼ中央、セーヌ川の南岸に面している5区にベルジェール大学というのがある。ここは同じ敷地内に大学院が併設されていて、一貫して研究に取り組むことが可能なため、長きにわたり多くの研究や論文を発表し続けてきている。
そして今回、日本で開催されたシンポジウムの議長を務めるのが、ここの大学の教授だった。
オレからの申し出に教授は、二つの条件を出してきた。
一つはテーマとなる他生物による再生医療に関して教授との共同研究とすること。これによりオレ個人で管理することができなくなった。だが、研究内容に関して特に興味はなかったし、オレの目的は別にあったのでもちろん了承した。
そしてもう一つの条件がパリで行われた国際映画祭のオープニングセレモニーで教授の娘であるミレーユのエスコートを務めることだった」

え?!
ミレーユって教授の娘だったの?

「教授としてはオレが手掛ける研究を、共同という形にすればそれだけで自分の名も上がる。また誰よりも世間の注目を浴びたいと思っている娘の望みも叶えられるってわけさ。
この時のミレーユにしてみればオレはただのアクセサリーだ。
大きな舞台で単にシャルル・ドゥ・アルディにエスコートさせたと世間にアピールしたかったのだろう。
だからこちらも利用させてもらったんだ。おかげでオレの熱愛報道はあっという間に君の住む日本にまで伝わったはずだ」

驚きの連続にあたしの心拍数は上昇するばかりだった。

「じゃ、あの熱愛報道もあんたがわざとさせたってこと?
でもなんでそんなことしたのよ?」

シャルルはその瞳をぎらりと光らせた。

「人は所有物を手放すと知った時、初めて惜しく思うものなんだ。執着という名の感情が生まれ、失いたくないと思うんだ」

そうだ、彼女とシャルルの噂を聞いてから確かにあたしはずっと後悔していた。シャルルの夢を見るようになったのもちょうどその頃からだったわ。

「まさか……」

あたしが食い入るように見つめるとシャルルは頷いた。

「そう、そしてタイミングよくシンポジウムへ参加するためにオレは来日し、君と再会するつもりでいた。共時性という名の運命を感じてもらうためにね。
全てが君へと向けたものだ。
報道が過熱していく中でもあくまでも彼女にとってオレはアクセサリーでしかなかった。
だが噂が一人歩きを始めるようになると、彼女はオレ個人ではなく、アルディの名に惹かれ始めた」

「でもなんで普通に会いに来てくれなかったのよ?」

シャルルは再び自嘲的な笑みを浮かべた。

「正面から行って一度失敗しているからね。君の心の中にオレがもしいるのなら今度こそはっきりとオレへの想いを自覚してもらう必要があった。二度と手放すつもりはなかったからね」

彼女との事はあくまでも噂だったんだ。

「ずいぶんと遠回りをしてしまった。でもこうして今、オレの隣に君はいる」

シャルルの二つの瞳が優しく揺れ、あたしを見つめている。
シャルルの手がそっと伸びて、あたしの頬に触れた。わずかに震える指先から愛おしさが溢れ出している。

「ずっと君だけを愛していた」

シャルルは頬を傾け、そっと唇を重ねた。


つづく