きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い34

な、なによ、その心の中を解剖って……と一瞬思ったけどすぐにそれが何か分かった。
手術が終わりすべてが上手くいったらきちんと話をしようと言ってたシャルルの言葉を思い出した。
そうだ、まだ色々な事がモヤモヤしたままだ。これまでのシャルルの不可解な言動もあたしの想いも、まだ何一つ解決していなかったんだ。

「でもその前に君に見せたいものがあるんだ」

シャルルはテーブルをぐるりと回るとあたしの隣に座り、テーブルの上の一部をスッとスライドさせた。
あら、そんな所が開くのね。
中からは十センチ四方の操作パネルが現れた。シャルルはそれを慣れた様子で操作し始める。するとあたし達の正面の壁に飾られていた畳一枚ほどの大きさの絵画が上へとゆっくりとスライドし始め、
その後ろから大きな透明のスクリーンのような物が姿を見せた。

「何あれ?」

向こう側の壁が透けて見えていてまるで大きなガラスが壁に飾られているみたいだった。

「透過プロジェクションと言って透明フィルムに映像を映し出す物だよ。それより見ててごらん」

青かったスクリーンがパッと切り替わり目の前に映し出されたのはテーブルの上にいくつものマイクが置かれている映像だった。
しばらくするとザワザワと辺りが騒がしくなり、カメラのフラッシュが一斉に閃光を放ったかと思えばその直後、白のブラウスにベージュの膝丈のフレアスカート姿の彼女が現れた。

「あっ……あれ、ミレーユじゃない!」

それは忘れもしない彼女の姿だった。
でもあの時とはだいぶ雰囲気が違っていた。その表情は弱々しく、気の強かった彼女は影を潜めていた。
スクリーン左奥から現れた彼女は正面まで来ると深く一礼をする。

「何、これ?」

あたしは呟き、隣に座ってるシャルルを見た。
シャルルは満足げにニヤッと笑った。

「彼女へのペナルティーさ。ほら、始まるよ」

シャルルに促されてあたしは再びスクリーンへと向き直る。時折、涙を見せながら話す彼女はフランス語が分からないあたしでもその重苦しさから彼女の置かれている状況がとても厳しい事だけは感じ取れた。
映像は十五分ほどで終わり、元の青いスクリーンに戻った。

「すべてフランス語だったから分からないとは思うが君自身の目でこれを見てもらいたかったんだ。
ミレーユはフランスでは名の知れた女優だ。映画や舞台などでもいくつもの賞を受賞し、今後もその活躍が期待されていた。そんな中で彼女は引退を表明したんだ。製作中の映画、舞台など全て途中降板してね。出演契約不履行による違約金は約一千万ユーロ、日本円にして約十三億四千万円を彼女は支払うことになる。彼女の総資産はおよそ十億円。その差額三億四千万円をこれから彼女は背負って生きていくことになる。一般人となる彼女には到底返せる額とは思えないがね」

その話を聞いてあたしは唖然とした。
一体彼女の身に何が起こったっていうの?あの気の強そうな彼女がなぜ引退をしようなんて思ったの?
まさか……?!
するとシャルルは静かに頷いた。

「言ったろ?彼女にペナルティーを与えるって」

「一体何をしたの?」

「オレは彼女に選択肢を与えただけだ。ここで自ら退くか、それともオレに全てを明かされて道を断たれるかを選べとね」

どちらにするか、選ばせたと言いながらすでに彼女はシャルルの思った通りの選択をするしかなかったんだわ。
それで全てを途中で投げ出す形で彼女は引退せざるを得なかったんだ。
かつての恋人から突きつけられたその選択肢を彼女がどんな思いで受け取ったんだろうと考えているうちにあたしの中で一つの疑問が生まれた。

シャルルと彼女は元々は恋人なのよね。
もしかしてあたしが現れたことで二人の関係がおかしくなったんじゃないかって……。
こんな風に彼女を追い詰めたりしてシャルルは本当はつらいんじゃないの?
彼女のしたことは許せないわ。
だけどそれでシャルルまで苦しむのなら、あたしの気なんて晴れなくたって構わないって思い始めていた。

「彼女をこんな風に追い詰めたりしてあんたは何ともないの?
恋人だった人を苦しめて、あんた自身は本当に苦しくないの?
あたしはこうして目も治してもらったし、彼女のことはもう何とも思ってないのよ。だからせめて彼女が背負わなきゃいけない借金だけでもあんたがどうにかしてあげてほしいの。そしたら少しはあんたも……っ…きゃっ……!」

あたしが最後まで話し終えるのを待たずにシャルルの腕があたしの体を攫った。

「君はどこまで自分の気持ちを偽わるつもりなんだ!オレにとって大切なのはマリナ、君だけだ。彼女への制裁はむしろ足りないぐらいだが、再会したばかりの君に冷酷なアルディ家直系の血を見せたくはなかった。君に嫌われたくないと考えてしまうクセはあの頃と何も変わっちゃいなかった。君が足りないと言えば彼女を華麗の館に監禁することだって、本邸の地下に一生閉じ込めておくことだってできるんだ」




つづく