きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の証50000hit感謝創作15


「君はこれで良かったのか?」

あたしが何?
突然降って湧いたようなあたしへの質問に訳が分からずにきょとんとしてしまった。


「何のこと?」


あたしが尋ねると苛立たしげにシャルルは言った。


「和矢はオレとの友情を選んだようだがマリナ、君はそれで良かったのか?
和矢がパリに来ていたのを知りながら君はそれをオレに黙っていただろ」

あっ……!


「知ってたの?!」

何かを振り切ったかのように隣でシャルルがため息をもらした。


「セーヌで君が何かに気を取られているのはすぐに分かった。それが和矢だという事もね。胸が焦げそうだった。やはり君の中の一番は和矢なんだ、またあの時と同じだと思ったよ。だからオレは君たちに時間を作ったんだ。二人で答えを出すための時間をね」


それでわざわざ病院まで行ったんだ。

和矢が言ってた。どうしてシャルルは付いて行ったんだろうって。
小菅であたしと和矢を再会させた時と同じ事をしようとしたんだ。
過去は消せない。
シャルルを好きだと告げておきながらあたしは和矢の手をとった。
その傷がシャルルの中では一生消えることはないんだ。だからあたしに聞いているんだ。
どっちにするのかって……。



「それでわざわざ病院まで行ったの?」


シャルルの気持ちを考えると胸が苦しくなった。そんな風に思っていたなんてこれっぽっちも考えていなかった。和矢とのことはあたしの中ではもう終わったことだった。


「病院まで行ったのはそれだけじゃないけどね。溺れた子供にはペースメーカーが埋められていた。つまり心臓に疾患を抱えているってわけ。傷跡の大きさから考えてごく幼い頃に手術を受けているはずだ。となれば経静脈にリードを埋め込んでいるとは考えにくい。成長に伴ってリードが伸びてしまうからね。ペースメーカーの電池寿命も考えれば交換手術が行われてもいい年齢なのにまだそれもされていない。
そんな子供から目を離して一人にする母親がいると思うかい?
気になって戸籍を調べさせたらやはり実の母親ではなかった。保護管理者義務違反。つまり簡単に言えば虐待行為だ。転落も故意に行われた可能性も捨てきれない。
その事もあって直接担当医に会って警察への通報を促したんだ」


そんな事があったんだ。それでも電話で済む話だと思った。
シャルルはあたしと和矢を二人にする時間を作るために病院に行ったんだ。
やっぱり子供の事は口実だと思った。あたしは堪らなくなってシャルルの手をぎゅっと握りしめた。


「あたしの中の一番はシャルル、あんたよ。和矢が居たのを黙っていたのはいつかシャルルとの事をちゃんとしに来るまで言わないでくれって和矢に頼まれていたからよ」


シャルルの瞳があたしを真っ直ぐに見つめて真意を探っているかのようだった。


「君は懐かしむような目をしていた。戻りたくなったんじゃないのか?」


シャルルは縋るような目であたしを見つめた。もしかしてシャルルはあたしがいつか自分の元からいなくなるかもしれないって思っていたの?
そんな風に思わせてしまったのはあたしだ。でも二度とそんな事はないって伝えなきゃいけないって思った。


「たしかに懐かしいとは思ったわ。でもそれだけよ。
戻りたいなんて思ったことは一度もないわ。あたしと和矢はもう終わったの。
あんたがそうさせたのよ。
一緒に逃亡していた時間の中であんたはあたしに愛を刻み込んでいたの。あの時はまだそれが愛情なのか同情なのかあたしは気づけなかった。それが時間が経つにつれてあんたを恋しく思う気持ちが次第に大きくなっていったの。
それが愛だって分かった頃に和矢から別れようって言われたの。和矢はあたしよりも先にそれに気付いていたみたい。
もう間違えたりしないわ。あたしはこれからもずっとあんたと一緒にいたい。あんたが嫌だって言ってもよ」


その瞬間シャルルがきつくあたしを抱き寄せた。


「マリナ……。オレが君を嫌だなんて思うわけないだろ。和矢を見かけてからずっと不安だった。君を手放さなければいけないかもしれないと思ってずっと怖かった」


あたしの耳元でシャルルは絞り出すように言った。あたしは堪らなくなってシャルルの背中をぎゅっと抱きしめた。


「お願いだからもう和矢の事は忘れてちょうだい。あんたは忘れられないかもしれないけど、でももうあの時の事は忘れて欲しいの。あたしはどこにも行かないわ。ずっとあんたのそばにいたいの」


あたしを抱くシャルルの腕が一層強くなった。


「マリナ……疑ったりしてすまない」






つづく