きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の証50000hit感謝創作18

手術を終えて部屋に戻るとマリナはオレの帰りをずいぶんと待ち侘びていたのだろう。まるで子犬のように駆け寄ってきた。そんな彼女の行動はオレの独占欲を十分に満足させるものだった。
しかしそれも長くは続かなかった。

「ねぇシャルル、手術はどうだったの?和矢はどんな様子?
少し顔見てきてもいい?
んー、でもまだ目を覚ましてないかな。ね、こういう時ってお花とか持っていくべき?
それとも果物かな。そうだ!フルーツの盛り合わせにすればすぐに食べられるよね」

マリナは一気に喋り出し、そのうちに自分の世界を彷徨い始めた。
正直マリナの口から和矢の名が出る事にはまだ少し抵抗がある。
自分がこれほどまで嫉妬深いとは思っていなかった。単にマリナに出会うまでは執着するものが特になかったからかもしれないが。
しかし和矢の心配をしていたはずが終いには自分好みのフルーツにたどり着いている彼女の思考に敬服する。さすがに嫉妬心も和らぎすっかりダシにされている和矢に同情さえおぼえた。

「手術は無事終了したし和矢も目を覚ましているからフルーツでも何でも持っていってやるといい」

マリナは安心したのかホッとした顔を見せたが一瞬だけその表情が曇ったのをオレは見逃さなかった。二人で会うことでまたオレが余計な事を言い出さないか心配なのか……?
それとももっと別の理由か……?
オレはマリナの心理を探るようにその瞳を見つめた。
少し躊躇いながらマリナが言葉を口にした。

「シャルルから頼んでくれない?」

これまでの会話の流れ、内容を無視したかのようなマリナの願いにオレの脳細胞が一時停止する。
まったく何をしてやればいいのかがさっぱり分からない。さすがはマリナだ。オレの思考を止める事が出来るのは君ぐらいだよ。目的さえ分かれば誰へ向けてのものかも想像できるはずだな。

「何を頼んで欲しいんだい?」

「フルーツの盛り合わせよ。あたしが頼むよりシャルルが言った方が早いと思うのよ」

ますます深みにハマっていく気がした。切り口を変えるか。

「なぜそう思うんだい?」

マリナは言葉を選びながら話し出した。それはオレの考えもしなかったことだった。


「あたしが頼むと厨房の人達が迷惑そうだから気まずいのよ。でも考えてみればそりゃそうよね。

突然降って湧いたように現れたあたしがここの人達に受け入れてもらえるはずないものね。今はシャルルのおまけみたいなものだけど早くここの人達に認めてもらえるようにならなきゃ、ね」


無理して笑顔を作って見せてはいるもののマリナの瞳は孤独を映し出しているように見えた。まさかそんな風に思っていたとは。
マリナの様子がおかしいと執事が話していたのをオレは思い出していた。
和矢と再会したせいだとばかり思っていたがマリナが見知らぬ国で暮らすには一緒に過ごしてやる時間が少なすぎたようだ。これはいわゆるホームシックだ。
これまでの環境が一変し、一人きりでこの部屋で過ごすうちにマリナの心が変化に対応できずに不安定になっていたんだ。雇主と使用人という距離感もおそらく理解できていなかったのだろう。


「分かった、フルーツは用意させよう。だがその前に君と話がしたい」


首を傾げるマリナの腰を引き寄せ、この腕に抱きしめた。寂しい思いをさせてしまった事を悔やんだ。


「ちょっ、ちょっとシャルル?一体どうしたのよ?」


マリナはオレの胸から抜け出すとオレを見上げた。


「マリナ、最初にきちんと話しておくべきだった。君はいつかオレの妻となりアルディ家の一員となる人間だ。少なくともオレはそう思っている。アルディで働く全使用人が周知していることだ。それがどういう事か分かるかい?」


マリナは本当に分かっているのか、小さく頷いてみせた。


「だからあたしがしっかりしないとみんなに認めてもらえないって事でしょ?
あたしも和矢みたいにみんなから声を掛けられたりしたい。今はダメでもいつかきっとね」


使用人達の対応は極めて機械的なものだ。それが当然だからだ。旧公爵家であるアルディ家では全使用人に対して厳しく教育している。だがマリナはそのような環境に慣れていない。人懐っこく誰とでも親しくしようとするマリナにとってはこの機械的な使用人達の対応は自分への拒絶だと感じたのだ。マリナならどんな環境にも順応できると思っていたのが甘かったか。


「和矢は使用人達にとってはオレの客だ。親しげに話すこともあるだろうが君はアルディ夫人となる人間だ。彼らにとって君は雇主になる。ある程度の距離をとって接するのは当たり前の事なんだよ。決して彼らは君を拒絶しているわけじゃない。そうする事が忠誠なんだ。だから今のままのマリナでいいんだよ」


ここに来てから寂しい思いをしていたのだろう。マリナはホッとした表情をみせた。


「そうだったんだ。あたしはてっきり……。だったら自分でフルーツはお願いしてくるわ。じゃあシャルル、あたし行ってくるね!」


切り替えの早さはさすがだな。
オレは頷き、マリナを見送った。




つづく