きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

君と蒼い月を 5

今回は和矢との大人のシーンを匂わせる場面があります。
直接的な描き方はしていませんが、読み進める際はご自身の判断でお願いします。
私の作品の中で和矢との絡みは初です…
シャルル以外とは無理!と言う方はご注意下さい。


***

 

 

和矢の言葉に茫然とした。誰かと会うって一体誰とよ?!
あたしがそんなことするわけないじゃない。
大好きな和矢と一緒に暮らせて幸せでいっぱいなのに……とその時、幸せって何だろうって疑問が心の中にふって湧いてきた。
別々に暮らしていた時は会えるのが嬉しくて、デートの日はいつも浮かれていた。
だけど今日は和矢が先に帰っていると知ってあたしは何て声をかけようかと躊躇った。
無邪気に幸せを感じてたあたしは、どこにもいなかった。
一緒に生活するってそういうこと?
もしも結婚したら毎日がこんな風になってしまうの?
あたしは首をぶんぶん振った。
違うわ!
バイトを辞めればこんなこともなくなるはずよ。
ずっと家で和矢の帰りを待っていれば、遅くなることもスーパーで惣菜を買うこともなくなる。
ずっと家にいればいいんだ。
そうよ、そうしたら和矢に変に疑われることもなくなるわ。
だけど、それって……。
考えすぎて何が最善なのかわからなくなってきた。それにしても和矢は一体どこへ行ったんだろう。
明日だって仕事だろうし、本当ならのんびりしたいはずよね。
それなのに夕飯も食べずに出て行ってしまった。
あたしは和矢が安らげる空間も作れていないんだ。
その時、ポケットに入れていたスマホがブルブルっと振動した。
見ると和矢からの通知だった。


「さっきはごめん。今日は実家に泊まる」


メッセージを読んで、あたしはすぐに返信した。


「帰ってきて。ちゃんと話そうよ」


だけどこの日、あたしのメッセージに既読が付くことはなかった。


何かを作ってまで食べる気にもならず、お風呂にも入る気にもならずに寝ることにした。
そうだ、あたしはずっと気ままに過ごしていた。好きな時に食べて、好きな時に寝て、お風呂なんて入らなくても誰にも何も言われずに自由だったことを思い出していた。
和矢との生活を初めて窮屈なものだったんだと感じた瞬間だった。
布団に潜って一晩考えた。
お金は必要だからバイトはやっぱり辞められない。
その代わり残業は二度としない。
店長もこれで最後って言ってくれたし。
そしてまんが家の仕事をちゃんとしよう。
きっと前みたいに和矢とケンカすることもなくなるはずだわ。
そして幸せになるの。


「幸せにおなり」


ふと、その言葉が心に落ちてきた。
あの時シャルルに言われた言葉だ。


「あたし、幸せなのかな」


言葉と共にぽつりと涙がこぼれた。
命さえも差し出すほどのシャルルの想いが蘇ってきた。
どれだけ大切にしてくれていたかを思い出すと胸が苦しくなった。
そんなシャルルが手を離してくれてまで得た幸せって何だろう、そんな事を考えながらあたしは一人、眠りについた。


翌日、まだ忙しくなる前のお店に行った。
和矢とのケンカもあって、店長にちゃんと話しておこうと思ったからだった。


「それで、わざわざ来たの?」


「はい。一応お話ししておこうと思って」


「色々と条件付けて来るなら週末は夕方から出てよ。昼間は正直、人がいるんだよね」


「でも夕食の準備とかあって」


「あのさ、一人前の仕事ができる奴の話なら聞くけど、あれはだめ、これはだめだとこっちも困っちゃうんだよね」


その時、立て続けに注文が入ってきた。


「ま、そういう事だから週末、頼むよ」


それだけ言うと店長は料理に取り掛かり始めた。もう話をする雰囲気はすっかりなくなり、あたしは帰るしかなかった。
それなら辞めますって言えばよかったんだろうか。
だけどすぐに次のバイトが見つかる保証はない。近所で探すとなったらなおさらだ。
とりあえず和矢には時間になったら帰らせてもらえるように店長に話した事を言おう。代わりに週末の仕事は夜になっちゃったけど、時間できっちり帰れるからって話せばきっとわかってくれるだろう。


この日、和矢は19時前に帰宅した。
手には小さな箱を持っていた。


「昨日はごめん。俺、余裕なくてダサかったよな。ケーキ買って来たから一緒に食べようぜ」


「うん。あたしも店長に頼まれてもきっぱりと断ればよかったのに、ずるずると伸びちゃっててごめん。もう店長には残業はできないって話してきたから」


和矢はホッとしたような笑みを浮かべた。


「俺、お前のことになると不安になる。だってどこに行ってもさ、お前を好きになる奴が現れるじゃん」


優しい眼差しの奥に不安の色が揺らめいていた。


「そ、それはあたしのせいじゃ……」


「ま、気持ちはわからなくもないけどさ」


そう言うと和矢はあたしの肩に手を置き、真っ直ぐに見つめた。


「もう離さないって俺、決めたから。誰にも渡さない。お前は俺のものだ」


その瞬間、あたしは和矢の言葉に違和感を覚えた。
大好きな和矢にこんな風に思ってもらえて嬉しいはずなのに、怖いと感じている自分がいた。
だけどそんなあたしにお構いなく、和矢は自分の作り出した雰囲気に流されるように頬を傾けてきた。
あたしは咄嗟に顔を晒してしまった。
すると和矢はクスッと笑った。


「いい加減、慣れろよ」


そう言うとあたしの顎をつまみ、再び頬を傾けた。柔らかな唇が重なった。
和矢は甘い吐息を溢すと、体をあたしに押し付けるように密着させてきた。
唇が離れ、和矢の熱い瞳があたしを見つめていた。


「いい?」


あたしは息を飲んだ。


「待って、お風呂がまだだから」


「いいよ、気にしないから。そのままのお前も欲しい」


「いや、でも……」


あたしの言葉を遮るように和矢はあたしを抱え上げると寝室へ向かった。
折り重なるようにベットになだれ込むと、すぐに和矢はキスをしながらあたしの服を取り払っていった。


和矢は胸に触れ、下腹部に手を伸ばした。
それに反応したあたしが声を出すと、ほどなくして和矢はこじ開けるように侵入してきた。
いつもの苦痛の始まりだった。
あれこれと理由をつけて避けてはいるけど、月に一度はこの苦行の時間が訪れる。
早く終わらないかとあたしは毎回、ひたすら待つしかなかった。

 

 


つづく