きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

忘れられないもの16


懐かしさと切なさが溢れ出しあたしはその後ろ姿をただ見つめるだけでまるで時が止まったかのように動けずにいた。
あの頃よりも少し逞しくなった後ろ姿は時の流れを感じさせた。
ルームキーを受け取ったシャルルがこっちを振り返った瞬間、あたしは思わずこめかみを押さえるふりをして手で顔を隠した。なぜそうしたのかは自分でも分からなかった。昔のあたしだったら駆け寄って「久しぶりね!元気にしてた?」って何も考えずに言えたかもしれない。
でも今のあたしにはそんな事はできない。シャルルを傷つけてしまったあたしが今さらどんな顔をして会っていいのかなんて分からなかった。
もう二度と会う事もないだろうと思っていたのがこうして元気そうなシャルルの姿を見れただけでも良かったと思った。
日本でもあんな風に特別な扱いを受けてるって事はきっとアルディ家の当主に戻れたんだ。
良かった……心からそう思った。
あたしは指の隙間からそっとシャルルの様子を覗いてみるとエレベーターを待っているみたいだった。シャルルの事だからこのホテルで一番の部屋に泊まるのだろうな。それでもカーテンの趣味が悪いだのソファのデザインが気に入らないだのベットが固いだのと、きっと文句を言うんだろうな。
泊まれるだけで十分、寝られれば満足のあたしとは大違いだわ。
可笑しくなってクスッと笑いが溢れ出した時、何かが頬を伝うのを感じた。
可笑しいのに泣いてる心のアンバランスに自分が無理をして笑っていたんだと気づく。
きっとこれがシャルルを見る最後だと思った。シャルルの姿をこの目に焼き付けておこうとエレベーターの方へ視線を向けると一人の女性がシャルルに近づいていくところだった。エレベーターが到着して二人は扉の向こうへ消えていった。顔はよく見えなかったけど見事なブロンドの巻き髪にスラリとした女性だった。


「そうよね。もうあれから何年経ってるのよ。シャルルなら素敵な人を見つけてて当たり前よね」

駆け寄ったりしなくて良かったと、出来もしなかった事だけどホッとしている自分が惨めに思えた。
頭では分かっていた事なのにあたしの心が受け入れられずにいた。
シャルルが女の人と……。 
もしかして奥さん?
悲しむ権利なんてあたしにはないのにこんなにも胸が苦しくて心が痛くてどうしたらいいか分からなくなった。
一秒でも早くこの場から離れたかった。あたしは立ち上がり駆け出していた。
玄関の自動ドアは焦れったいほどゆっくりと開き、あたしは待ちきれず開いた隙間から逃げ出すように外へ出た。
こんなに近くにいるのにとても遠くに感じる。
女の人と一緒にいるシャルルなんて見たくなかった。
こんなに好きになっていたなんて……。
雨はまだ降り続いていて傘を持たないあたしに容赦なく降り注ぐ。
トボトボと歩いていると後ろからグッと肩を掴まれ驚いてあたしは振り返った。

「こんな雨の中、何してるんだっ?!」


つづく