きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

忘れられないもの15

「実はマリナちゃんの事が前から気になっていたんだ。もちろん君と和矢が付き合っているのは知っていたし、どうにもならないのは分かっていた。だけど二人はだいぶ前に別れたって知った時からいつ言い出そうかとずっと思っていたんだ。マリナちゃん、良かったら僕と付き合ってほしい」
 
高瀬さんはそう言うと審判の時を待つかのように不安げな表情であたしの答えを待っている。
あたしの一体何を気に入ってくれたんだろうかと不思議に思いながらたとえその感情が一時の迷いや勘違いだとしても人からこんな風に思われるのは悪い気はしなかった。
それに高瀬さんは頼りになるし、優しくてとても素敵な人。看護師さんの間でもとても人気があって誰もが憧れるような存在だった。
だけどあたしには忘れられない人がいる。だからきちんとお礼を言ってそして断ろうと思った。
 
「あの、あたし……」
 
プルップルッ。
張り詰めていた空気を破るかのように耳慣れた携帯の呼び出し音が鳴り響いた。
高瀬さんは胸ポケットからスマホを取り出して画面を確認した。
ピリっと緊張が走ったような表情を見せると「病院からだ。ちょっとごめん」と言って席を立った。
どうしたんだろう、何かあったのは間違いない。
こんな状況でどうかとは思ったけど今あたしに出来るのは高瀬さんが戻ってくるのを待つことだけだ。
どうせなら残りのケーキを頂きながら待つことにした。五分ほどで高瀬さんは足早に戻ってきた。
 
「マリナちゃん、ごめん。これから病院に戻らなきゃいけなくなった。とにかく君を家まで送るよ。それからさっきの返事は急がなくていいからゆっくり考えて、できれば良い返事を待ってるよ」

「はい」
慌ただしい雰囲気の中であたしは付き合えないとは言い出せずに最後のケーキを口の中に放り込み立ち上がった。

「下に車を待たせてるから」
エレベーターで一階まで降りるとロビーのソファで待つように言われた。
高瀬さんはフロントに立ち寄ると何やらホテルの人と話をしている。きっとワインを飲んだから代行でも頼むのかな。
辺りにはちらほらと宿泊客らしき人の姿が見えてフロントには小さな列が出来始めていた。ぼんやりと外を見ると雨はまだ降っているみたいで傘をさしている人の姿が見えた。今日はこのまま雨なのかなと思いながら高瀬さんに視線を戻した時、あたしは息を飲んだ。
混み合うフロントから少し離れた場所で
明らかに順番待ちをしている一般の人たちとは違う対応を受けている人が見える。
くせのない白金の髪、少し逞しくなった背中、スラリとした長い脚。
それは間違いなく、愛しい人だった


つづく