きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

届かぬ想い1

「永遠に、君だけを愛してる」

あたしを見つめる青灰色の瞳が優しく揺れる。シャルルはあたしの髪にそっと手を差し入れるとその瞳に強い光を宿し、ゆっくりと頬を傾けた。
あたしはそっと目を閉じた。
シャルルの肌の温もりをすぐそばに感じてあたしは心から幸せを感じていた。
ところが淡い光に包まれているような感覚は突如として消え去り、ヒヤリとした感覚だけが残るばかりであたしは急に不安になった。
そっと目を開けるとシャルルの姿はどこにもなく、ただ孤独という暗闇が辺りを飲み込むように広がるばかりだった。

「シャルルっ?どこ?!」

あたしは自分の叫び声で目を覚ました。まだ心臓がドクドクと脈打っている。

「またこの夢……」

夢の中のあたしは同じ夢を見ているという自覚は全くない。
これは誰にでも経験があるんじゃないかな。
どんなに矛盾があっても不思議な事が起きたって夢の中では疑問に思ったり感じたりはしない。
当然、夢だって分かるのかは起きた後であたしはまさに今、その状態だった。
夢から覚めてもシャルルの声はまざまざとあたしの頭の中に残っていた。
小菅でシャルルと別れてから六年。あんなに好きだった和矢とは一年ほどで別れた。横浜と東京では決して遠距離とは言えない。だけどあたしは売れないマンガ家。飛び込みで仕事が入れば何はさておき優先せざるを得ない。
どんなにすれ違いが続いても和矢はあたしの都合に合わせて何度も時間を作ってくれた。
だけどあたしはいつしか時間を作ってまで和矢に会いたいと思えなくなっていた。
なぜかってシャルルと別れてから分かったの。手放してしまったものがどれだけ大切だったのかを……。

「ジリリリリーン…」

静寂の中、枕元に置いていた目覚まし時計がけたたましく鳴り響いた。
今日は出版社主催のイベントスタッフの仕事だった。売れないマンガを描きながらそれだけでは生活できないあたしはこうしてイベントに駆り出されたりアシスタント、取材などをさせてもらって生活をしていた。

身支度を済ませて都内で開かれるイベント会場へと向かった。そびえ立つビルを見上げると眩暈を覚えた。こんなビルでイベントができる一流マンガ家にはあたしは一生なれないんだろうと先の不安に襲われる。
エレベーターに乗り込み会場入りすると同じように駆り出されてきていた有川沙耶さんが駆け寄ってきた。彼女は二つ年上の短期契約のアルバイトさんで一緒に仕事をする事が多い。

「マリナちゃん、おはよう。
ねぇ知ってる?今日このビルで何とかっていうシンポジウムが開かれるらしいんだけどそこに例のあの人が来るらしいのよ」

あたしは息を飲んだ。
沙耶さんの言うあの人とはシャルルの事だ。今やシャルルは時の人。
フランスの有名女優との熱愛報道が日本でも流れ、連日のようにメディアで騒がれている。華麗なるフランスの貴公子シャルル・ドゥ・アルディの恋の行方に日本中が注目しているようだった。
あたしがあの夢を見るようになったのもちょうどその頃からだった。
これまで浮いた話もなくその存在は医学会では知れていたものの世間の目に晒されることはほとんどなかった。
ところが熱愛報道によってシャルルは一躍時の人となった。


つづく

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みなさん、こんにちは!
少し遅くなりましたがシャルルBD創作開始です。スローペースですがどうぞ気長にお付き合い下さい。