先を歩くシャルルの背中はどこか冷たい。こんなあたしに呆れているのかもしれない。
「こっちだ」
言葉少なくエスコートするシャルルを怖いとさえ思った。
怒っているのは明らかだった。
それでもこうして会えたことにあたしの心は揺れていた。
二度と会えないと思っていたシャルルが目の前にいて、あたしの名前を口にしている。それだけで胸がいっぱいだった。
エレベーターが最上階で止まると、怒りながらもエレベーターのドアを手で押さえながらあたしを先に下ろしてくれるシャルルの優しさが心に沁みた。
カードキーを差し込み、ドアを開けるとシャルルはまたあたしに先に入るように促す。
ガチャリとドアが閉まった後、シャルルはさらに厳重にと思ったのかドアガードを横にしてロックした。
その途端、あたしの肩を両手で掴むと壁にドンと押しつけた。
「きゃっ……!」
「なぜ無警戒で部屋に入った?」
「えっ?」
あたしの着ていた上着をシャルルは肩から剥がすように脱がすと床に落とした。
「オレが何もしないと思ったのか?!」
振り払おうと暴れた途端に、シャルルに両手首を掴まれ、ものすごい力で頭の上で固定されてしまった。
「オレなら大丈夫だと思ったのか?!」
シャルルは鋭い目つきであたしを責めるように見るとあたしのカーディガンのボタンを上から一つずつ外し始めた。
「いや、待って、シャル……」
あたしの言葉を遮るように唇が重ねられた。荒々しく唇をこじ開けてシャルルの舌が侵入してきた。
あたしは怖くなってずるずるとその場にへたり込んだ。
そこへすかさずシャルルが覆い被さってきた。
あたしは必死に足をばたつかせて抵抗した。だけどあたしの両手はシャルルに掴まれてしまい、もう片方のシャルルの手がスカートを捲り上げて太ももに触れた。
あたしは力もなく、泣いた。
「怖いよ……シャルル」
するとシャルルはふっと手を止めて、体を起こすとあたしを抱え上げてソファまで運んだ。
「男が本気を出したらどうなるか、少しはわかってくれ」
窓辺へ向かい外を見ているシャルルの背中が悲しそうに見えた。
もしかしてシャルルはそれをあたしに分からせるためにわざとしたの?
簡単に佟弥を家に上げてしまうようなあたしに忠告するため?
こんな風になったらどうするんだって身をもって教えたってこと?
だとしたらシャルルだって今、すごく嫌な気分なはずだわ。
やりたくてやったわけじゃない。
こんなことしておいて平気でいられるような人じゃない。
それだけ無警戒過ぎるあたしに怒っているんだ。あたしは何をしているんだろう。
「シャルル、嫌なことさせてしまってごめん。きっとあんたの方が胸が痛いよね」
するとシャルルはゆっくりと振り返った。
悲しげに瞳が揺れている。
「マリナ、人を簡単に信用しないでくれ」
「心配かけて本当にごめん。でもシャルルは別よ。あんたはあたしが怖がってるのを見てやめてくれた」
シャルルは何度目かのため息をつくと、あたしの隣に座って膝の上に肘をつき、両手を組み合わせた。
「世の中の男がみんなオレと一緒だとは思うな。それにオレは君を犯したいわけじゃない」
そしてスーツの内ポケットから封筒を取り出した。
「50万だ。君が懸命に働いた証はきっちり回収してきた」
「シャルル……」
あたしはそれを受け取り、ぎゅっと胸に抱いた。
このお金をあたしはこの数日間、どれだけ求めたことだろう。
このお金さえあればアパートを追い出されずに済むって何度も何度も考えたわ。
「さっきは怖がらせてすまなかった」
シャルルの手が優しくあたしの頬に触れた。
「高久とは本当に何もなかった?」
「ないわ。盗聴器で聞いたんでしょ?」
するとシャルルはあたしから目を逸らせた。
「全部は聞いてない」
でもシャルルの話は全部聞いていたかのような口ぶりだったわ。
佟弥はあたしが50万を貸した日から姿を消した。でもそのことをシャルルは知っていた。あたしと佟弥のやりとりを全部聞いてなきゃ、あの50万の話は知らないはずだわ。
一体どういうこと?!
つづく