きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

いつかの君を忘れない 8


マリナの両親が帰国した日から、オレはダイバーによる捜索に加えてあの一帯の孤島の捜索を始めた。
イタリア半島を囲むリグリア海アドリア海ティレニア海、そしてイオニア海にはいくつかの島が存在する。
海外からの観光客も多い島は対象から外した。そこへ辿り着いていたらすでに連絡が入っているはずだからだ。
そうではなく、もっと小規模の、それこそ無人島に近い島を対象とした。
数はそこまで多くはない。
部下をいくつかのチームに分け、捜索させることにした。
地元民への聞き込み、海岸付近の捜索および漂着物を調べさせ、どんな些細なことでも報告するように指示をした。
そしてオレはジルと共にクルーザーに乗り込み、まずは事故現場から西にあるカルザ島に向かった。
一周しても15分程度の小さな島には島民が数十人ほどで暮らしていた。
しかし有力な情報は一つも得られないまま、オレ達は次の島へと向かった。

「この辺りに島はいくつ存在する?」

「およそ12島です。普段は生活拠点ではなく、数週間に一度、地元民が渡ると行った形の物や、断崖絶壁のために立ち入れない無人島も含めると20は下らないと思います」

手当たり次第に行くしかないが、そこまで多くない。
今日明日でこの一帯は見ておきたい。

***

「シャルル、ここが島民が暮らす最後の島です。あとは完全な無人島だけです」

ここが島民から話を聞ける最後の島か。
海岸に降り立った頃には太陽は西へ傾き始めていた。

「急ごう。今日中にあといくつか無人島も見ておきたい」

砂浜では10歳ほどの子供達が遊んでいた。
オレ達を見るとかけ寄って来た。

「あんた達も遭難者か?」

その少年の言葉に戦慄が走った。

「オレ達の他にも誰かここに来たのか?!いつ?!男か、女か?!一人か?!今どこにいる?!」

三人の少年達は我先にと話し出した。

「二週間ぐらい前」
「女の人が一人」
「島の療養所にいるよ」

オレは息を飲んだ。
マリナだ!

「怪我をしてるのか?!」

「うん、ひどい怪我をしてた」
「手がないみたい」
「来週には本島の船が来るから運ぶって」

手?腕か?
切断したのか……。

「案内してくれるか?」

三人は互いの顔を見合わせて迷っているようだった。

「オレは医者で、その人の友達だ。それで彼女を助けに来た。案内を頼めるか?」

すると三人はパッと顔を輝かせた。

「お医者さんなら大丈夫か」
「そうだな。怒られないよね?」
「早くしないとダメだってゴルザ先生も言ってたし」
「わかった。こっちだよ」

オレ達は少年達の後に続いた。

「療養所にいるなら処置は済んでいるはずだが、ジル、すぐに医療ヘリの手配だ」

「はい」

海岸から真っ直ぐな道を上って行くと小高い丘の上に古びた木造の療養所が見えてきた。
島を見渡せる、いわば島の中心だ。
道すがらオレは更なる情報を少年達から聞き出した。
少年達の話によるとその女性はやはり肩から腕が失われている上、傷口から感染を起こし、危険な状態らしい。
島にある漁船ではとても運べない状態だが、島にはヘリを呼ぶ手段がなく、本土からの物資を運ぶ船を待っているのだそうだ。
ここは今だに小さな怪我や病気が命取りになるような小さな島なのだ。
療養所は木の板を張り付けて建てたような簡易な物が見える。
外観の様子からだと衛生面は期待できない。
感染症を起こしてもおかしくない状況か。
それでも生きていてくれさえすればオレが必ず助けてやる。

「ゴルザ先生、お医者さんが来たよ!」
「あの人の友達だって!」
「ヘリも来るって!」

少年達は息を切らしながら診療所の中へと駆け出した。
オレ達も後を追うように駆けて行くと、中から初老の男性が出てきた。
オレの姿を見ると、ホッとした表情を浮かべた。

「本土から来た医者か?」

「フランス国立病理研究所から来たアルディと言います。先生が女性を保護していると聞いてこちらへ参りました。おそらく私の友人かと」

「それでわざわざフランスから?それはそれは。さあさあ、中へ。患者は左上腕を切断した状態で発見され、応急処置は施したが一週間ほど経ってから幻肢痛を訴えていたが、感染症にかかり、今は昏睡に近い状態だ」

破傷風菌ですか?筋肉の腫れや痙攣は?」

「2日ほど前からあるが、ここには点滴などないため、朝晩二回、滅菌ガーゼで抗菌薬を塗るのがせいぜいだった」

「すぐに診させて下さい」

「もちろんだ。こちらへ」

案内された部屋には入るとわずかに腐敗臭がした。
急いでベットのカーテンを巡り、オレは愕然とした。

「シャルル、これは……」

 

つづく