きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

いつかの君を忘れない 5


午後八時、日没と共に軍は今日の救助活動を終え、明日早朝からまた再開するとの知らせが来た。

「シャルル、私達も一度戻りましょう」

九時を回った段階でジルから連絡が来た。

「そうだな、君達は戻ってくれ」

夜間飛行は可能とはいえ、ヘリでの捜索は困難だ。燃料も朝までは持たないだろう。

「シャルルは続行しますか?」

「もちろんだ。見つけるまで続ける」

「では、私もクルーザーに降りますわ」

「いや、君はアルディへ戻って情報収集を頼むよ。救助者の中にマリナがいる可能性もあるからな」

張り詰めた空気の中、ジルは小さく息を吐いた。

「わかりました。再度、海流予測および捜索範囲の特定を試みます」

「頼む」

ライトが海上を照らす中、今も甲板から捜索活動は続いている。
だが無数の浮遊物の中に人の姿はなかった。
再びオレはパソコンへ向かい、海面図を開いた。
まもなく満潮を迎える。
また、潮の流れが変わる。
北北西に5キロほどクルーザーを移動させた。
すでに海上は闇に覆われ、視界は2メートルが限界だった。
事故からすでに12時間経過した。
夏の気配は残ってはいるが、9月の海水温は夜間になればグンと下がる。
ケガを負ってなくても低体温症になりかねない。
どうする……。
いくら考えを巡らせても答えなど見つからなかった。
午前0時に一旦戻ると決めた。
日の出と共に捜索した方が効率はいい。
頭ではわかってはいるが、この場から離れ難かった。
もしかしたらマリナはクルーザーが見える場所にいて、助けを待っているかもしれないと思うと決断が鈍った。
明け方近くに仮眠を取ったが、ひどい悪夢に目を覚ました。
夢の中のマリナは深い海の底で静かに眠っていたのだ。
熱いシャワーで眠っている体を起こした。
夢を見ている場合ではない。
マリナは今も眠れないまま、広い海の上を彷徨っているのだ。
パソコンを開くとジルからのメールが来ていた。
海流と潮汐力から新たな捜索範囲の提案と昨日の段階での救助者のリストが送られてきていた。
リストの中にマリナの名前はなく、アジア系の中に身元が確定していない者もいなかった。そして同行していたマルクの消息も不明のままだった。
マリナはまだ、あの場所にいるのだ。

**

日の出と共に軍による救助活動は始まっていた。現場付近は軍に任せ、オレはクルーザーを昨日よりも西へ向かわせた。
干潮による海流の変化を考慮し、最も可能性の高い地点を割り出した。
しかし、浮遊物は何一つ見当たらなかった。

「次はイオニア海だ」

イタリア半島の南にも範囲を広げることにした。当初は西へ流されたと考えたが可能性がゼロでない限りは捜索すべきだろう。

「しかし、現場からかなり離れてしまいますが」

操縦士は困惑した表情で小さく答えた。

「きさま、私に意見か?」

「いえ、申し訳ございません」

「わかったらすぐに向かうんだ」

操縦士の合図でアンカーが引き上げられ、すぐにクルーザーは動き始めた。

「ジャックは信頼できる最高の操縦士よ。海上の事にも詳しいし……」

話を聞いていたのかジルが口を挟んできた。

「オレの判断に間違いなどない。今朝のこの付近の海上は風速5m/s。マリナの体重から考えると南へ流された可能性もある」

「それで言えば私も同意見だわ。でもそれはマリナさんがただ浮遊していた場合でしょ。何かに捕まって現場近くに留まっている可能性だって考えてもいいのでは?」

「その場合、海空軍のどちらかが見つけるはずだ」

あの場に留まっていてくれたらもう見つかっていてもおかしくない。
今のところ生存者を発見したという報告は来ていない。おそらく引き上げられているのが生きていない人間だからだろう。
時間の経過と共に行方不明者は相当な数になるだろう。
その中にマリナは絶対に入れさせやしない。
マリナが現場周辺にいるなら、もうとっくに見つかっているはずなんだ。
そうじゃないということはその周辺か、あるいは……。

 

 

つづく