きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

いつかの君を忘れない 7

マリナの両親が帰国する日の朝、オレは犠牲者の家族が滞在するサランダ海岸の目の前に立つリゾートホテルへ向かった。
彼らがアルバニアへ入国した際、オレは空港へ出向いたが、オレを見るなり関係者専用の迎えのバスに乗り込んで行ってしまった。
両親にしてみたらオレがマリナをパリに呼びさえしなければ事故に遭うこともなかったんだ。
当然の反応だろう。
ロビー近くで両親が出発するのを待った。
15分ほどすると多くの人がチェックアウトを始めた。
人混みの中からマリナの両親の姿を見つけ、オレは近づいた。
すると父親の方が先にオレに気づいた。
その場から立ち去ろうとする父親の前にオレは立ち塞がり、頭を下げた。

「きさまと話すことなどない!マリナはお前のせいで!」

「お父さん、辛いのはシャルルさんだって」

「お前は黙っていろっ!」

父親の罵声に驚いた人々が一斉にこちらを見た。中には心的ショックから泣き崩れる女性や怯えて泣き出す子供の姿も見えた。
この場にいるのは犠牲者の家族がほとんどだ。
あまり刺激は与えたくない。
それでもオレはマリナの両親に話をしなければならない。

「池田さん、オレが必ずマリナを見つけ出します。だからマリナの死亡届けは最大猶予期間まで保留にしてもらえませんか?」

マリナをパリへ呼び寄せたこと、あの便を手配したこと、そして今だに見つけられないこと、謝罪することはいくつもある。
だが、オレは彼らから許しを得たいわけではない。
オレはただ、マリナを見つけ出したいだけだ。
行方不明者の家族には死亡届けを提出するまで一定の期間が与えられる。
この間は独自に捜索することができる。
ただ多くの場合、帰国の際、手続きをしていく者がほとんどだ。
事故を想起させる場所へ二度と足を運びたくないと考える人もいるからだ。

「きさま、何を言っているんだ!あれから13日だぞ?!マリナは冷たい海の中で……」

この言葉に母親が嗚咽し、父親はそこで言葉を飲み込んだ。

「だからこそ、見つけてやりたいのです。今日もダイバーを潜らせています。必ず見つけ出します。だから死亡届けの提出は見送って下さい」

「あれだけの規模で見つけられなかったのに、きさまに見つけられるはずがない」

「では、海岸の砂をマリナの代わりに埋葬すると言うのですか?それで良いと?」

すると父親は顔を歪め、押し黙った。

「必ず私が見つけ出します。マリナは今もどこかで救助を待っているはずです。これまでも一か月後に不明者を発見したケースがあります。マリナの命のタイムリミットをここで決めるべきではないはずです」

オレの言葉に父親は力なく、好きにしろと言い残し、その場を去って行った。

「お母さん、例のものはお持ちですか?」

「ええ、でもどうするんですか?」

「本人特定のために使います」

母親はオレに「よろしくお願いします」と言うとバックから小さな木箱を取り出した。
そして父親の後を追うようにホテルを出て行った。
事故のショックに打ちひしがれていた両親に対してオレは煽るような言葉を選んだことに胸が痛んだ。
それでもどうしても捜索は続行したかった。彼らにはあえて言わなかったが、万が一、無事に発見できなくても、マリナの一部でも見つけ出せれば、オレは……。
生涯をかけてでも彼女を再生するつもりだ。

 


つづく