きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

いつかの君を忘れない 4


「状況は?!」


「着水地点へ救助の船が出ていましたが、報告のあった地点より20キロほど手前で落下したとのことで、救助活動は遅れているそうです」


マリナを乗せたジェットが墜落した。


「ヘリの準備は?!」


「裏庭からすぐにでも飛べます」


「うちのクルーザーをすべて地中海へ向かわせろ」


「すでに向かわせています。海軍もアルディ家からの緊急要請を受けて出動したそうです」


迅速な救助が何より求められる状況だが、オレの頭の中は後悔で渦巻いていた。
どうしてオレはそばにいてやらなかったんだ……!
オレがついていればこんなことには……!
マリナから友人のペットを預かるからと言われた時、オレは以前から予定していたとはいえ、高度脳機能研究主催の集合オペの執刀を断るべきだったんだ。
なにが医学会の新発展だ。
いや、違う。
オレが明日にでも日本に行けば済んだんじゃないか?
なぜオレはマルクを行かせた?
一日でも早くと、オレが願ったことがまさかこんな運命をマリナに背負わせてしまうなんて。


「シャルル、大丈夫ですか?」


ジルが少し潤ませた青灰色の瞳でオレを気遣うように聞いてきた。
そうだ、こんな時に思考の世界へ入り込んでいる場合ではない。
ジルの方がよほど緊迫した状況下でも冷静に動いてくれているな。
そうだ、一刻も早くマリナを見つけるんだ。
一筋の光でいい。
僅かでも命さえ繋いでいてくれたらオレが何とかする!
必ずだ!


**


ヘリが海上に出てからほどなくして行くつかの救助船が眼下に見えてきた。
そして付近一帯には機体の一部の破片が浮遊していた。
元は鉄の塊だ、ほとんどが海へ沈んでいるはずだ。浮遊物は乗客の衣類や座席シート、それにコンテナに積んだ荷物がほとんどだろう。


「海軍の船は六隻だけかっ?」


「通常の墜落事故の出勤よりは多いはずです。今回はアルディ家からの直接の依頼ですので……」


「そう、だな」


事故の規模にもよるが海軍としても最大限の協力体制を取っているのはわかっていた。
だが海上での墜落事故は時間との勝負だ。
この時期の海中は華氏70度の水温だ。夕方から夜にかけてはさらに下がる。生存可能時間は8〜15時間、意識不明に陥るのはおよそ2〜24時間だ。
とにかく早く見つけなければ!


「ジル、オレはランティスのクルーザーに降りる。君はヘリで待機してくれ」


「わかりました」


**


「シャルル様、こちらに」


デッキ中央に用意されていたパソコンを開き、オレは周辺の海流を調べた。
本来、海流は大きな海水が様々な力により絶えず動く。
水塊が垂直、水平方向に一定周期で移動し、風や水圧、潮汐力などから形成される。そして地球の自転と周辺の風によってその方向は決まる。
落下時刻と地点からおおよその場所は特定できる。


「北へ流された可能性が高い。アドリア海北部へすぐに向かってくれ。海軍の捜索箇所は?!」


「落下地点の5平方マイルの区域を中心にアドリア方面へと捜索していくとのことです」


見立ては同じか。
事故からすでに3時間。
イムリミットは近い。
ここから20分ほどか。
救命具を付けていれば浮遊可能だが、もしマリナが付けていなかったら……今はそちらへの思考はやめるべきか。
波を蹴散らし、クルーザーは果てない海原を進んでいく。


ランティス、墜落時の詳しい状況と現段階での生存者を調べてくれ」


「はい、シャルル様」


関係各所からマリナらしき人物の生存が確認された場合はすぐに連絡が来ることになっているが、今だに何も来ない。
焦りは判断を鈍らす。
今はオレが考え得る救助方法の中から最善のものを選ぶんだ。
ランティスが甲板へ戻ってきたようだ。


「シャルル様、現在確認されている生存者は64名。マリナ様の特徴に近い人物はいないとのことでした。また墜落の原因はエンジンからの出火、爆発による機体損傷とのことです」


乗客の1/4が生存か。
かなりの距離まで機体を下降させ、海面に近い状態で胴体着水を試みたが、機体を制御できずに墜落した、ということか。


「どのエンジンから出火したかわかるか?」


「第三エンジンからだと聞きました」


マリナの乗ったファーストクラスからは離れている。直接の爆発には巻き込まれていないはずだ。
今更だがマリナにGPSを持たせておくべきだった。
夕陽が傾き、海上をぼんやりと照らしている。肉眼での捜索にもタイムリミットが迫ってきている。

 

 


つづく