「シャルル……!」
振り返ると人込みをかき分け、ものすごい勢いでシャルルが近づいてくる。
海辺で捜索の様子を見ていた見物人達もその勢いに圧倒されたのかあたしへと真っ直ぐの道がパッと開けた。
よかった……これで無事にホテルに帰れるとあたしはほっと胸をなでおろしているとシャルルはあっという間にあたしの体をさらうようにかき抱き、耳元で絞り出すようにあたしの名を繰り返した。
「マリナ、マリナ……」
「シャルル?」
あまりに必死な様子にあたしはシャルルの腕の中から顔を上げた。
「何かあったの?」
シャルルは食い入るようにあたしを見つめ、それからほっとしたように安堵の表情を浮かべた。
「無事でよかった……」
その様子からあたしがいなくなってシャルルが心配して探し回ってくれていたんだと知った。
「ごめんね、心配かけて」
もしかしてマクソンが言ってた大捜索ってあたしのことだったの?!
「君がいなくなったとジルから連絡があったんだ。そして君を探すうちに海岸でこれを見つけた」
シャルルはそういうと握っていた手を開いてみせた。
「あっ、それ」
シャルルの手のひらには失くしたはずのネックレスがきらりと光っていた。
「これを見た時、生きた心地がしなかった。すぐにフランス大使館を通じてベリーズ首相に連絡をとり、海上保安省を動かしてもらったんだ」
それで島のダイバー総出で捜索してくれていたんだ。相変わらずのシャルルの顔の広さに驚きつつ、あたしはその時のシャルルの気持ちを考えたら申し訳ない気持ちでいっぱいになり、連絡できなかったとはいえ心配をかけたことを謝った。
「君が無事ならそれでいい」
そういうとシャルルは携帯を取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。久しぶりに聞くシャルルのフランス語に聞き惚れていると、そばであたし達のやりとりを見ていたマクソンが声をかけてきた。
「大捜索はマリナさんのためだったんですね。でもよかった。お連れの方にも無事に会えたみたいだし、もう安心ですね。では僕は帰りますね」
「あ、ちょっと待って。昨日話していた遺跡のガイドの話、シャルルに聞いてみるから」
「何の話だ?」
恐ろしく低い声に振り返ると後ろで電話していたはずのシャルルが冷やかな視線でマクソンを見据えていた。
「マリナ、昨日島に来たばかりでもう男と会う約束か?」
青灰色の瞳が冷たく光り、あたしは震え上がった。
「そ、そんなわけないでしょ!あたしはただ……」
「ただ、何だ?」
うぅ……怖い。
シャルルの冷やかな視線を浴びながら、あたしは助けてもらったお礼にマクソンに遺跡のガイドをしてもらわない?ってシャルルに聞こうとしただけと説明した。
「遺跡のガイドが礼?それならーー」
シャルルはポケットから出した小切手帳にさらさらっとサインをするとそれを切り離しマクソンに差し出した。
「直接的で申し訳ないがオレ達は遺跡の観光をする時間は取れそうにない。これはガイド料代わりに受け取ってくれ」
するとマクソンは自分の手のひらをシャルルに向けるように開くと小さく振った。
「そんな、ガイドもしていないのに受け取れません」
あの時と同じだわ。
アドルフがお礼を渡そうとした時、マクソンは今と同じように断っていた。
それで、もし遺跡の観光をするならって話になったんだもの。
きっとマクソンはお金とかじゃなくてガイドとしての仕事がしたいんだ。
行方不明になってしまったお父さんの分も自分が頑張って遺跡観光を盛り上げていきたいって思っているんだ。
遺跡に行ってる時間がないなら作ればいいのよ。ブルーホールの遊覧時間を当てればいいわ。もともとシャルルはブルーホールには関心なさそうだったし、あたしが見たいなら行こうかって感じだったからきっと良いって言ってくれるはずだわ。
「それならーー」
とあたしが言いかけた時、
「それなら1つお願いがあります。ーーシャルル・ドゥ・アルディさん」
その瞬間、シャルルはあたしの腕を引き寄せると自分の後ろにあたしを隠した。
「マリナ、下がってろ」
「きさま、なぜオレを知っている」
つづく