マリナじゃない……!
ベットに横たわっていたのは白人の女性だった。
先に少年達に特徴を聞くべきだった。
マリナだという期待が判断を鈍らせた。
「救助されたのはこの女性だけですか?!」
するとゴルザ医師は頷いた。
「お探しの方ではありませんでしたか」
目の前が真っ暗になり、オレは立ち尽くした。
やっと、やっと見つけたと思ったのに!
「人違いでした」
「そうでしたか。それは何とも……。それでこの方の治療は」
ゴルザ医師は言葉を濁した。
重症患者を目の前にしてさすがに見捨てるわけにもいかないだろう。
「医療ヘリを呼んであります。本土の病院へは私から連絡しておきましょう」
「それは安心した。なにせ来週にならんと船が来ないもので、どうしたものかと思っていたところだった」
「菌が全身に回りかけているが急いで処置をすれば、いずれ回復するでしょう。では私はこれで失礼します」
「ありがとう。あなたもお探しの方が早く見つかるといいですね」
「ええ、では」
また振り出しか。
マリナじゃなかった。
その事実に引きづられる思いを振り切ってオレは次の島へと向かった。
二週間が経った今でもあの女性は奇跡的に命を繋いでいた。
マリナだって、きっと。
だが、残るは無人島だけだ。
もしマリナがあの女性のような状態だとしたら……!
ゴルザ医師の応急処置を受けた彼女のようにはいかない。
切断箇所によっては致命傷だ。
気持ちばかりが焦った。
どこだ、どの島にならマリナはいるんだ。
「次は東にあるバンジェス島だ」
「シャルル、日没まであまり時間が」
ジルの悲しげな視線の先には海の彼方へ沈みゆく太陽が赤黒く染まっていた。
このまま上陸しても捜索は困難かもしれない。
だけど諦められなかった。
「あの島にマリナがいるかもしれないと思ったらオレは戻れないんだ、ジル。あの女性のように助けを待っているかもしれない。日没まではまだ少しある」
「そうですね。一刻も早くマリナさんを迎えに行かないといけないですものね」
選んだ道がマリナへ繋がると今は信じるしかない。
バンジェス島と名付けられた島は火山島のため険しく、クルーザーを停泊させるのが難しいため、島の近くに投錨させ、まずはオレが泳いで島へ上陸した。
岩場ばかりで何もない。
辺りを歩いていると、石組みで焚き火をしたような痕跡を見つけた。
人だ、人がいる。
石の焼けた感じからするとまだ新しい。
ふと岩場を見上げると島の奥には森が見えた。
ジルに知らせに戻るか迷ったが、捜索を優先させた。
オレが戻らなければきっとジルが応援を呼ぶだろう。
辺りに注意を払いながらオレは先を急いだ。
すると大きな木の下にココヤシの葉で囲われた場所を見つけた。
自然の物ではなく、明らかに人の手が加えられている。
オレはそっと近づき、中の様子を伺った。
すると中には男が横たわっていた。
「マルクか?!」
「シャ、ルル様……」
オレはマルクに駆け寄った。
見れば足に添木をして固定していた。
生きていた……!
「マリナはっ?!マリナはどうなったっ?!」
「マリナ様は無事です」
その言葉を聞いた瞬間、胸に熱いものが込み上げてきた。
生きていた……マリナが。
やっと、やっと見つけた。
これまで長く、苦しかったが、諦めずにここまで来て良かったと思えた。
「それでマリナはどこにいる?」
「近くにいらっしゃるかと。少し前に食料を探しに行かれました」
「わかった。ここで待っていろ」
オレが駆け出そうとするとマルクが呼び止めた。
「お待ち……下さい、シャルル様」
「どうした?」
「実はマリナ様は……」
「ただいま、マルク。ゴホッ、ゴホッ。さっきリスに噛まれちゃっ……」
そこへ黄色の果実を持ったマリナが戻って来た。
「マリナ!!」
オレはマリナに駆け寄り、力いっぱい抱きしめた。
「ぎゃあ!」
その瞬間、マリナが悲鳴を上げ、オレからバッと離れた。
「ごめん、どこが痛む?!」
すぐに腕を解き、オレは離れた。
慌ててマリナを見たが、目立った外傷はなさそうだった。
「どこが痛む?!腹部か?それとも腕?!」
するとマリナはオレを警戒しながらマルクの方へ駆け寄った。
「誰、この人?!」
「マ……リナ?」
冷たい物が背中に走った。
つづく