「返して」
駆け寄ったあたしは佟弥から下書きの絵を奪い取り、胸に抱えた。
なかなかプロットが思い浮かばず、困り果てたあたしは先にメインキャラになる二人の設定から描くことにしたの。
軸になるキャラはしっかりと描いて、作風を見てもらおうと正面と横顔、それに全身。
で、そのうちの一人が佟弥をそのままモデルにしちゃったってわけ。
「ごめん。勝手に描いたりして」
俯くあたしの頭を佟弥はポンと叩いた。
「別にいいよ。マリナが売れないマンガ家なら、あいつに見られることもないだろうし。居候の身だからモデル料はいらないや」
「本当にいいの?」
あたしは恐る恐る顔を上げた。
「あぁ。ちなみにもう一人の方は想像?」
あたしが首を振ると佟弥はマジか?と言って驚いていた。
「実在するのか。こんな整ってる奴、俺見たことないよ」
そうよね。あたしだって初めてシャルルを見た時は思わずショルダーからスケール出して顔にあてたもんだわ。
こうして佟弥の許可もあって、あたしは期限までの6日間でなんとかネームを描きあげて編集部へ持ち込みした。
「キャラもまぁ良いじゃん。そしたらこれで描いてきてよ。締切は来月の7日だけどいける?」
「は、はい。やれます!」
今日を入れて9日か。
2ページずつ描けばなんとか間に合うわ。
「そしたら増刊号に載せてみてアンケートの結果でこの後どうするか決めるって編集長に言っとくわ」
「よろしくお願いします」
捨てる神がいれば拾う神もいるものね。
あたしは何とか仕事を取りつけて帰宅した。するといつもは帰りの遅い佟弥が玄関の前で待っていた。
「ごめん、こんなに早く帰ってくると思わなかったわ」
「今日が家賃の期限だったろ?」
「あっ!そうだった」
「ほら、これで払ってきちゃえよ」
そう言って佟弥はポケットから封筒を取り出してあたしの前に差し出した。
「う、うん。でも本当にいいの?」
「気にすんなよ。俺も困るからって言ったろ?」
「そうだけど。こんな大金を人から貰ったりして申し訳ない気がして」
「いいんだって。それより寒いから早く中に入れてよ」
佟弥はその場で駆け足をする真似をしてみせた。
「わかったわ。ありがたく頂きます」
それからあたしは佟弥を残して一人で大家さんの元は向かい、滞納していた家賃を全額支払った。そしてそのまま商店街まで足を伸ばし、ある場所へ向かった。
「10分もあれば出来ますよ」
その間にあたしは近くのお店で赤いリボンを買った。
つづく