きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

夢の果てに 8

家賃の支払い期限が過ぎた翌日、ポストにまた封筒が入れられているのを見てあたしは茫然とした。 
度重なる遅延に対して今回の猶予は三日間だけだった。
通帳を握りしめて銀行に行ったものの残高は5千円しかなかった。
打ち切りとマンガ回収のおかげで原稿料が入って来なくなったあたしは途方に暮れるしかなかった。
3ヶ月前と同じ路上生活への不安な道を再び進むしかなくなっていた。
そういえば佟弥って、たしか神楽って言ってたわよね。
きっとうちから行ってたんだから都内にその病院はあるんじゃないの?
家に帰り、あたしは電話帳を引っ張り出してきて神楽病院を探してみた。
佟弥は忙しくて帰ってきてないだけかもしれない。せめて今月分の家賃25000円だけでも返してほしい。
だけどどこの区のページを開いても神楽という名前の付く病院は見つからなかった。
名字を病院名に入れているとは限らないってここに来てあたしは気づいた。
ちゃんと佟弥に聞いておけば良かった。
次にあたしは片っ端から病院に電話をかけまくった。


「すいません、そちらに神楽佟弥先生はいらっしゃいますか?」


「当院にはそういった方は在籍しておりませんが」


あたしは何日も電話をかけ続けた。
何度目かの電話をかけ終えた頃にはあたしは涙が止まらなくなっていた。
本当はわかっているわ。
佟弥に騙されたんだってことぐらい。でも認めたくなくてあたしは必死に佟弥を探しているだけだって。
今日にも強制退居であたしはここを追い出される。そしたら電話もかけられないんだってことに今さらながら気づいた。
あたしは急いで編集部に電話をかけた。
すぐに佐藤さんが出て、仕事を下さいとお願いしてみた。


「あんたを使うのはもう辞めようって決まっちゃってんだよね。実は肖像権侵害で訴えられてるんだよ。バックがデカいらしくてあんたもヤバイんじゃない?ダメだよ実在人物使ったら…ってこと。だからもう連絡とかしてくるの、勘弁して」


あっ……そういうことだったんだ。
それで打ち切りと回収だったんだ。
そうなるともうあたしはマンガ家として終わりだわ。
バックがデカいって。
まさか……!
シャルルにあのマンガを見られたことも、それを訴えられたことも何もかもがどうしてもいいかわからなくなった。
なんで知ってるのよ?!
その時、コンコンと玄関を叩く音がした。
強制退去が来たんだ。
荷物なんて全然まとめていなかった。
このまま追い出されるのかな。それとも少しの時間なら待ってくれるのかしら。
何を持って行こうか。
そんなことをぼんやりとあたしは考えていた。
玄関をノックする音が止んだと思ったらガチャガチャと鍵を開けるような音がした。 
佟弥?!
玄関に駆け出すあたしはゆっくりと開くドアの向こうに懐かしい姿を見つけてピタリと足を止めた。


「何をしているんだ、マリナ……。オレは君に幸せになれと言ったはずだ」

 


つづく