シャルル……!
言葉もなく呆然とするあたしの手を取ってシャルルは言った。
「来い」
「あたしを警察に連れて行くの?」
訴えられているってことは突き出されるんだ。それだけシャルルは今回のことに対して怒ってるってことだ。
あたしがああいう種類のマンガを描いたから直接来たんだ。
するとシャルルは大きくため息をついた。
「車で話す」
階段の下を見ると、場違いなほどに立派な黒塗りの車が一台止まっていた。
あたし達が車の前に行くと運転手が後部座席のドアを開けた。
先に乗るように促され、あたしは言われるがままに乗り込んだ。
ドアが閉まり、車が走り出すとシャルルは徐に話し始めた。
「アパートの部屋には盗聴器が仕掛けてある。だから場所を変える」
「どういうこと?」
「高久信和、君の知ってる名だと神楽佟弥は詐欺グループの一人だ。被害届がいくつか出ているそうだ。君も覚えがあるだろ」
佟弥が詐欺グループの一人?!
あの50万って……。
「高久は君に近づき、他の被害者と同様の手口で金を騙し取った。さらに君が高久をモデルに絵を描いていると知り、出版社と君に対して肖像権侵害を理由に訴えを起こし、多額の損害賠償までも請求した」
「訴えを起こしたのってシャルルじゃなくて佟弥!?」
シャルルは呆れた顔をした。
「オレが君を訴えると本気で思ったのか?」
「あたしがあんなマンガを描いたから怒って、それで……」
「少し呆れただけだ。オレは男は趣味じゃないからな。そんなことで君を追い詰めたりはしない」
ということはやっぱりシャルルもあのマンガを見たんだ。
「気分悪かったよね、ごめん。ってことは、家賃も滞納してるのに、あたし賠償金まで払わなきゃいけないの?!」
「盗聴器の録音音声に高久本人が承諾している証拠が残っていた。それを理由にすでに訴えは取り下げさせた」
佟弥が自分をモデルに使ってもいいって言ったのってアパートでのやりとりだわ。
ハッとしてあたしはシャルルに向き直った。
「盗聴器ってシャルルが?」
「オレにそういう趣味はない。高久の証言から奴らの事務所で保管されていた物を拝借した」
「シャルルもそれを聞いたの?」
あたしは恐る恐る聞いてみた。
「あぁ、聞いたよ」
「それって、どこから?いつから?」
泣きそうになりながらあたしは言った。
シャルルには聞かれたくないことをあたしは佟弥とたくさん話した。
そのどれもを聞かれたかもしれないなんて。
「マリナ、高久に少しは気持ちがあったのか?」
真っ直ぐにあたしを見つめるシャルルの目はギラギラと怒りに満ちていた。
「家族ができたみたいとは思ってた。でもそれは好きとは違うわ」
シャルルは深く息を吸い、気持ちを沈めようとしているみたいだった。
「だったらなぜ付き合うなんて約束したんだ。オレがあれをどんな気持ちで……。オレは和矢になら君を渡してもいいと思った。それがなぜあんな男に騙されて何かあったらどうするつもりだったんだ!」
初めて見たシャルルの荒々しさにあたしはシャルルの想いを踏みにじってしまった自分の行動を後悔した。
「佟弥は女の人に興味がないって。だから大丈夫だって思って……」
「高久には何人も女がいた。そのうちの一人から上手いこと言って君の家賃を払わせていたんだ。だから君とはたまたま何もなかっただけだ!」
これまであたしが見てきた佟弥は全部うそだったってこと?
あたしは言葉を失うしかなかった。
「シャルル様、到着致しました」
どこかへ着いたみたいだった。
窓の外を見ると大きな建物の前だった。
「部屋を取ってある。中で話そう」
そういうとシャルルは先に車を降りていった。
つづく