「そうだよ」
あたしは気まずさから明るく答えた。
まだドキドキしてる。
佟弥の恋愛対象は女の人じゃないって聞いてたからあたしも男の人として見ていなかったから余計にびっくりした。
でもこのドキドキは好きとかそういう感情ではない。
誰だって男の人とあんな風に近づいたらドキドキするはずだわ。
「シャルルっていうの。フランスに住んでるんだけど、もう会うこともないと思うけどね」
無駄に口数が増えているのは緊張してるせいなのかもしれない。
でも佟弥に話したって何の問題もなしだわ。だってシャルルは遠いフランスなんだもん。あたしの思いに気づくことだってはいわ。
佟弥はキッチンで静かにあたしの話を聞いていた。そしてコップをことりと置くと、振り返った。
「なぁ、マリナ。そいつの事、好きなままでもいいから俺と付き合わないか?」
その表情は真剣であたしは何て答えたらいいのか分からずに黙り込んでしまった。
「いきなりで困るよな。あれだよ、付き合うって言っても偽装っていうか」
「偽装?」
あたしの頭の中は??がいっぱい。
佟弥には大事な人がいるのにあたしと付き合う?しかも偽装?
どういうこと?
「実は俺ん家、病院やってるんだ。で、俺も医者で跡継げって言われてて、政略結婚させられそうになって、あいつの事を親父に話したら猛反対されて、それで家を出てきたんだ」
「だからってあたしと付き合ってどうすんのよ?」
思わず声が大きくなってしまった。
「マリナは俺が嫌いか?」
言いながら佟弥はゆっくりと近づいてきてあたしの目の前に座った。
「嫌いじゃないけど、それは友達としてで」
「マリナと一緒に暮らしてて思ったんだ。一生懸命に生きてるマリナが眩しいなって。幸せにしたいって思った。俺はあいつが好きだけど、どうしたって結婚はできない。だからこの子なら幸せにしたいって思える女の子に出会えたら、あいつの事もちゃんと話して、納得してもらった上でその子と結婚したいと思ってるんだ。あいつには、宗次郎にはマリナの事も話した。それでもいいって言ってくれてる。もちろん返事はすぐじゃなくていい。だから少し考えてみてくれないか?」
「考えるも何も、あたしはシャルルが好きなのよ。佟弥と結婚できるわけないじゃない」
「マリナはそいつを好きなままでいいんだ。俺も宗次郎を大切に思ってるのは同じだからさ。これは契約のようなものだ。お互いに思う相手がいながらそれでも幸せにならないかって話だよ。苦労はかけない。悲しませることもしないよ。俺は正直マリナも大切だって思い始めてるんだ」
頭から全てを否定しようとは思わないけど、だからって突然の話にあたしは戸惑いしかなかった。
「でも結婚だなんて考えられないわ」
「そしたらこう考えるのはどう?とりあえず付き合うって契約。もし嫌になったらすぐに契約は解除してくれていい。どうかな?」
いつでも辞められるならって思っている自分もいた。
佟弥は嫌いじゃない。
「わかったわ」
そう答えると佟弥はホッとした表情を見せた。
「ありがとう、マリナ。幸せにするよ」
つづく
***
みなさん、こんにちは!
大晦日ですね。
お忙しい中、来てくださりありがとうございました😊
お話の方は佟弥と結ばれつつある所で今年最後の更新となりました。
さて、この先二人はどうなっていくのか…楽しみにしていただけると嬉しいです。
やっとシャルルの名前だけは出てきましたね。シャルル出てくるのかな…といったところでまた来年です😅
次回更新は4日の予定です。
今年一年、お付き合い下さり本当にありがとうございました。
みなさま、良いお年を✨