きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

碧色のバカンス3

ホテルに戻ったあたしは鍵も持たずに部屋を飛び出したことに気がついた。オートロックだから当然、鍵がなければ開かない。
しかもジルの部屋もアドルフの部屋もどこなのか知らない。
これじゃ2人を呼んで海岸に行くどころじやないわ。仕方ないがない、ホテルの人に事情を話して鍵を開けてもらうしかないわね。あたしはカウンターに行き、フロント係に声をかけた。

「Excuse me」

「Yes Please 」

掴みはオッケーね。問題はここからなのよ。なんと言ってもあたしは英語が話せないんだもん。

「えーと、鍵を開けて欲しいの。ロス マイ キー!オーマイガーなの。スイートルームキー オープン。キーオープン」

とにかく身ぶり手ぶりで知っている単語を連呼した。これが意外と通じるのよ。これまでも何度かこれで切り抜けたことがあったぐらい。
文法なんてできてなくても単語を並べれば何とか通じるものなのよ。
すると少し待つように言い残してフロント係の女性はカウンターの後ろにある事務所へと入って行った。
よし、これで部屋に戻って携帯でジルに連絡すればいいんだ。
数分後、さっきのフロント係の女性が壮年の男性を連れて戻ってきた。
あ、この人チェックインをする時に担当してくれた人だわ。きっとこの人ならあたしがスイートの宿泊客だってわかるはずだ。
ところが壮年の男性はあたしの目の前に立つと、にこりともせず淡々と話し始めた。

「We are sorry but we can not guide you to the Suite. I will call the police if ……」

ポ、ポリスって警察ってこと?!

「ちょっと待って。英語じゃわからないわ。日本語ができる人はいないの?Japanese Please」

すると壮年の男性はきっぱりと「No」と言うとフロント脇に立っている警備員にちらりと目配せした。すると警備員がこちらに向かって歩いて来た。
もしかしてあたし、不審者だと思われてる?
そういえばここに着いた時、チェックインをしたのはジルだわ。あたしはその様子をあそこのラウンジから見ていただけだった。さすがにこの人があたしを覚えているはずもないのか。
これはまずいわね。
警備員との距離がわずか数メートルになった時、あたしは身の危険を感じて、その場から逃げるようにしてホテルを出た。
恐る恐る振り返ると警備員が壮年の男性と何やら話しているのが見えた。追いかけてくる様子はない。
警備員が出てきたのは捕まえるのが目的というよりもあたしを追い払うための威嚇だったみたいだ。
ホテルの外は早朝とあって行き交う人の数も少ない。あたしは足を止め、ホテルの最上階の部屋を見上げた。完全に締め出されちゃったわ。
行く当てもなくあたしはホテルの玄関脇にあったベンチに腰をおろした。
そうだ!午後にはシャルルが来る。玄関前で待っていれば必ずシャルルはここを通るはずだわ。そうすれば堂々と中に入れるわ。あの壮年の男性にはシャルルからうんと文句を言ってもらおう。
ふん、あたしを締め出した罰よ。

ホテルの前の通りを行き交う人も増え、辺りが賑わい始めてきた。
気温もぐんぐん上がってきてるみたい。
暑い……。
なんだか気持ちが悪い。それに頭も痛くなってきた。シャルルが来るまでなんて待っていられそうもないわ。

「マリナさん?」

あたしの名を呼ぶ声に顔を上げた。



つづく