きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛のかけらを掴むまで 2

玄関を入ったすぐの所に警備員が二人立っていた。ジルを見るなり「おかえりなさいませ」と声をかけてきた。あたしも何となくお辞儀だけして通りすぎた。
前に来た時とは違って呼び止められることもなかった。きっとジルと一緒だから通してくれたんだわ。


「マリナさん、シャルルに会う前にお話しておきたいことがあるので、まずはゲストルームに案内します」


「シャルルに会う前に?今日はここにはいないの?」


「いえ、今は執務室にいると思います」


会ったら何て声をかけようかしら。
こんなにも早く再会できるなんて思ってもいなかった。
まずは小菅でのことを謝ろう。それから自分の想いをちゃんと伝えよう。シャルルは何て言うだろう。
自分も会いたかったと言ってくれるかしら?
その時、あたしはハッとした。
あれから半年が経った。
当主になってるとしたらもしかしてシャルルは……。


「ジル、シャルルは当主に戻れたのよね?」


あたしは思わず立ち止まった。先を歩くジルがあたしを気にかけるように振り返った。


「ええ。ミシェルが検察当局に握られた政治工作の証拠を揉み消し、盗難にあった宝飾品の一つ、グノームの聖剣についても現在交渉中ですが、その実力が認められ当主に復権しました」


あの時たしかそんなことをルパートが言ってたわ。それをシャルルは見事にやったんだ。
だけど当主になるにはたしか条件があったはずよ。それであたし達はコンデ家まで一緒に行ったんだもの。


「当主になったってことは、その、シャルルは結婚……したの?」


するとジルは首を横に振った。
それを見てあたしは密かに胸を撫で下ろしていた。


「ミシェルとの騒動もあり、アルディ家の名誉が完全に回復するまではシャルルの結婚は見送ることになったようです。今ここで結婚相手を探したところでアルディを安売りするだけだと親族会議で反対意見が出たそうです」


「そうなんだ」


あたしの胸の内は複雑だった。
アルディを安売りできないと結婚を見送っているなら、なおさらあたしはシャルルと一緒にいられないんじゃない?
愛だ恋だと言う前にあたしには越えられない大きな壁が目の前に立ちはだかっているんだと思い知らされた。


「ジル、探したぞ」


その時、シャルルが廊下の向こうから数人の男の人達を従えて歩いて来た。
懐かしいその姿にあたしは目を細めた。


「シャルル」


何度も夢に見た再会だった。
あたしは駆け寄ろうと一歩踏み出した所をジルに腕を掴まれ、止められた。


「マリナさん、待って下さい」


「何だ、そいつは」


え……?
あたしを見るシャルルの目は冷たく、まるで石ころでも見るかのようだった。


「私の友人のマリナさんです」


ジルは慌ててあたしを庇うように一歩前に出た。
私の友人?
あたしはハッと息を飲んだ。
まさか……!


「友人ならきちんとした言葉使いを教えた方がいい。オレはアルディ家当主だ。気安く名を呼んでいい相手ではないとね。調べてほしいことがある。後で来てくれ」


そうだけ言うとシャルルは行ってしまった。そんな背中を見ながらあたしは凍りついたようにその場から動けずにいた。


「マリナさん、ごめんなさい。ちゃんと話をしてからシャルルに会ってもらおうと思ってたのですが」


あたしは首を振った。
ジルが悪いわけじゃない。


「シャルルの失くした記憶ってあたしのことだったんだ」


再会に期待で胸を膨らませていた自分が虚しかった。


「マリナさんに会えば、全て思い出すかもしれないと安易に期待をしていた私がいけなかったんです。一言で記憶と言っても記銘、保持、想起という三つのプロセスがあります。記とは覚えること、保持は情報を維持し続けること、そして想起とは脳内にある情報を引き出し、思い出すことです。シャルルはこの想起の部分に何らかの障害が起きているです。ですから何かきっかけさえあれば、と考えたのですがマリナさんにはいやな思いをさせてしまって本当にごめんなさい」


きっかけ……か。
前にもこんなことがあったっけ。
和矢があたしのことだけ忘れちゃってたってこと。
どうして好きって伝えようとするとみんなあたしのことを忘れちゃうのよ。


「ねぇ、ジル。あたしはどうしたらいいの?」


「辛いとは思いますが、マリナさんにはシャルルとなるべく多くの時間を共有してもらいます。何としてもでもシャルルにスティープルキーの場所を思い出してもらわないといけないのです」


「その鍵って壊せないの?それか鍵師に頼むとか」


するとジルは首を左右に振った。


「尖塔部分の設計は初代当主アンリ・ドゥ・アルディがベルサイユ宮殿の建築にも関わったルイ・ル・ヴォーに設計させた物なのでそれ自体がとても希少なのです。壊すなんてあり得ません。もちろん複製も交換もできない扉なのです」


「でも……」


あたしを見る時のシャルルの目が忘れられない。


「きっとシャルルだって、マリナさんを忘れたままでいたいはずがありません。どうか虚無の世界からシャルルを救ってあけて下さい」


ジルの言葉にあたしは胸を打たれた。
シャルルとまた笑い合える日が本当に来るのかはわからない。
けど、あたしだってこのままじゃ帰れない。


「わかったわ」


つづく