きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

春風よ君に届け16

平日にもかかわらず市内はあちこちで渋滞が発生していた。走り出したかと思えば止まり、またトロトロと走り出すを繰り返していた。
あたしは前の車は一体何をしているのかと身を乗り出してみたり、隣の車線の方が少しでも早いんじゃないかと落ち着かずにしていたら、車は大きく右に曲がりあたしはゴロンとシャルルの膝の上に転がってしまった。
げっ、緊張感がないって怒られそう。

「あはは……ごめん」

「大丈夫かい?」

だけどシャルルは機嫌がいいのか、いつものような冷凍光線どころか嫌味の一つも飛んでこなかった。

「うん」

あたしはホッとしながらシートに座り直し、シャルルの横顔をチラッと盗み見た。
ここに居るようだけどここに居ないような、何か考えごとでもしているようにも見える。まさか発作?
何年ぶりかしら?!
そっか、二人を助ける作戦会議をきっと一人でしているんだ。
久々に見る光景だわ。
そうよ!
シャルルは絶対に間違えることはないんだもん。だからあたしはシャルルを信じていればいいんだわ。
きっと何の役にも立ちそうにもないあたしを連れて来たのも、三人だけで乗り込もうとしているのもそれこそ渋滞さえ、シャルルの計算の内なんだと思えてきた。
そっか、焦れることなんてないんだわ。
安心しきったあたしはここで記憶がぷっつりと途切れてしまった。
もちろん病気でも突然の事故に遭ったわけでもないわよ。

「おい、起きろ!」

すっかりシャルルにもたれかかっていたあたしは凍りつきそうなほどの冷凍光線と刺すような冷たい口調で飛び起きた。
やだ、こんな時に寝ちゃうなんてどういう神経しているのよー!と自分でも焦りながら辺りを見渡した。
すでに目的地には到着していたらしくダニエルは車外であたし達を待っていた。

「ごめん……つい」

あたしは急いでシャルルの後に続いて車から降りた。
目の前には二階建ての建物があり、壁のあちこちにとても美しく細かい装飾が施されていてまるで美術館のようだった。
こんな所に本当に二人はいるのかと疑いたくなるような立派なお屋敷だった。
あたしはてっきり廃墟とか倉庫とかそういう物を想像していたから立派な建物を見てポカーンとしてしまった。
玄関は建物のちょうど真ん中にあって左右全く同じ配置で部屋が並び、窓の位置も形もまるで鏡に映したみたい。
と、こんな悠長に建物を眺めてる場合じゃないわ。ここで犯人に見つかりでもしたら一巻の終わりよ。
とその時きらっと何かが光り、あたしは眩しさに目を細めた。
何だろうとよく見れば玄関ドアの少し上の辺りできらりと光る物が見えた。
陽の光がちょうどその部分に当たってあたしの方に反射しているんだわ。
角度を変えようとあたしは背伸びをしてみたら反射していた部分が僅かに逸れてはっきりとした形が見えた。
あれは……!
あたしは夢中でシャルルの袖をぎゅっと引っ張り、玄関の上で神々しく輝くそれを指差した。

「ねぇ、シャルル、あれって……!」

その瞬間、ものすごい勢いで玄関のドアが開かれた。



つづく